環境保護の見地からの捕鯨賛成論

ゲオルグ・ブリヒフェルト
ハイノース・アライアンス
事務局長


「漁業および海洋哺乳動物の科学的管理の問題と戦略に関する会議」における発表文

                                1994年4月12日
                               米国ワシントンDC

まず、この会議の主催者の皆様に対し、お招きいただいたことを心より感謝いたします。 捕鯨やアザラシ捕獲に従事している国々の代表者の意見が米国民に披露されることは あまりありません。

最近、米国のアーサー・ラヴネル下院議員はノルウェーのテレビで「我々と同様の文化を 持ち、強力な環境運動を行っているキリスト教国の人々が、なぜ鯨を殺し続けたいと 考ているのか我々には分からない。」と語りました。 私は捕鯨国に住み、ノルウェー政府の 捕鯨再開決定を支持する強力なノルウェー環境運動の一員です。 この私の意見発表が、 なぜ鯨やアザラシを殺し続けながら文明人としてやっていけるのかを米国民が理解するのに 役立てばと、願っています。 また私は、現在生じている極北地域の沿岸諸国と米国の文化的 ・政治的衝突の理由を明らかにするために、米国の現在の海洋哺乳動物政策についても 論じるつもりです。

私は、北極圏の少し北にあるノルウェーのロフォーテン諸島の漁村に住んでいます。 この漁村の人口は四百人です。 過酷な自然と貧弱な草木と厳しい気候という点で、北大西洋の 他の多くの沿岸地域と共通した特徴があります。 しかし海の資源は豊富です。 海こそが 私達の生活の糧なのです。 季節毎のタラ漁は私達にとって最も重要なものです。 毎年 1 月から 4 月まで、バレンツ海全体からロフォーテン諸島まで、タラが産卵のために回遊してきます。

しかし、北大西洋では、魚類が豊富なだけでなく、海洋哺乳動物が多数生息し、この生態系で 重要な役割を果たしています。 アザラシ科動物は何百万頭にも達し、クジラ目動物は 何十万頭にも及びます。 この沿岸では、海洋哺乳動物の捕獲は初期の定住の重要な条件でした。

また、海洋哺乳動物は魚を食べ、したがって魚資源に依存する漁業者と海洋哺乳動物による 魚類摂取との間には、対立が生じる可能性があります。 まだ十分に解明されていませんし、 調査研究が行われている段階ですから、断言するのは問題であるかも知れません。 しかし、予備調査の結果では、商業的に貴重な魚類が北大西洋のミンククジラの主食で、 ハイイロアザラシが摂取する食物の 90% が商業的に重要な種で、またタテゴトアザラシが 摂取する食物のかなりの部分が魚であるということが分かっています。

この対立関係は、可能性以上のものだという証拠があります。 欧州議会の漁業委員会が先月 採択した決議は、「イギリス原産のハイイロアザラシが、アイルランド漁業に損害を及ぼして いる。」と述べています。 アイルランドの商業サケ漁から得られた最近の調査結果により、 水揚げしたサケの 90%がアザラシの被害を受けていることが分かりました。 それ以前の調査では、被害は 30〜80% とされました。

スウェーデンでは漁業従事者は比較的少数ですが、昨年、アザラシによる漁具被害に対して スウェーデン政府から 50万ドルの補償金を受けました。 彼らはアザラシの間引きを 主張しています。

産業としての漁業は海洋生態系に大きな影響を及ぼしますから、種間の相互作用を考慮して、 生態系管理へのより包括的なアプローチに海洋動物資源を組み入れることが必要でしょう。

間引きは資源の浪費であり、それを奨励すべきではありません。 多くの哺乳動物種は貴重な 食物となり、毛皮となります。 哺乳動物は多くの沿岸諸国の経済にとって重要であり、 その捕獲はできれば彼らに任せるべきです。

現在のところ、このアプローチには多くの障害があります。 米国海洋哺乳動物保護法によると、 米国税関は、米国民がカナダやグリーンランドで旅行で買ったアザラシ毛皮のスリッパ、 コート、人形等の土産物を国境で没収しなくてはなりません。 伝統的なアザラシ毛皮の衣服を 身にまとったエスキモーは、米国に入国する前にそれをはぎ取られるのです。 こうした毛皮製品となるアザラシ科動物のどの種も絶滅の危機に瀕しているなどという状態では 到底ありません。 どの種もワシントン条約の付属書に掲載されているわけではありません。 アザラシ毛皮製品の輸入を禁止していることは、明らかにガット違反です。 これまではこのことを問題にする動さはありませんでしたが、現在エスキモー達の間に そういう動きが検討されています。

グリーンランド東岸の人々は、四百年来アザラシ毛皮の売買に大きく依存してきました。 グリーンランドは、ヨーロッパ狩猟文化が残っている唯一の地であり、文化的多様性を はかるために保護する必要があります。 かつてはこうしたアザラシ捕獲産業がグリーンランド 経済に貢献をしたのですが、アザラシ救済キャンペーンがその市場を破壊したため、 現在では彼らはグリーンランド政府からの補助金に依存するようになっています。

フェロー諸島では野兎が最大の陸上動物です。 しかし諸島周辺の海域では、ゴンドウクジラが 数多く生息しています。 フェロー諸島に人が住みつくようになって以来今日まで、 ゴンドウクジラの肉はフェロー島民の重要な食料源となってきました。 この肉は販売される わけではありません。 肉はフェロー島民の間で無料でやりとりされています。 (国際捕鯨委員会が確認した)最新の調査によると、北東および中部大西洋には、70万頭を超える ゴンドウクジラが生息しています。 年間捕獲頭数は資源の 0.2% 未満でその資源量を 維持できることは何世紀も前から証明されてきています。

今日、「ゴンドウクジラキャンペーン」というイギリスの三つの民間団体の統一運動が 組織されており、フェロー諸島全製品をイギリスでボイコットし、それによってフェロー島民の ゴンドウクジラ捕獲を止めさせようとしています。 もしそうなれば、ゴンドウクジラの 肉のかわりに、ヨーロッパ大陸の農場から動物肉を輸入しなくてはならなくなります。 イギリスの環境映画プロデューサーのブライアン・リースは「デンマークからピンクサラミを 輸入する方が本当にいいのだろうか?」と問いかけています。(1991年デイリーテレグラフ)

これはいい問いかけだと思います。 フェロー諸島のシーフードをボイコットすることによって フェロー諸島の経済が崩壊する可能性もあり、そうなれば差し迫った食料確保のニーズを 満たすために、ゴンドウクジラの捕獲を増やす必要性が出てきます。

レーヌのある沿岸漁船の所有者は、加入している保険会社から戦争保険への加入を強制 されました。 その漁船は、種々の海洋資源の季節毎の回遊に基づく年次捕獲サイクルの 一環として、ミンククジラを捕獲しています。 1992年のクリスマスの翌日に、 カリフオルニア州に本部のあるシーシェパードというグループが、ロフォーテン諸島の漁船で ミンククジラ捕鯨船として兼用されている船を沈没させようとしました。 その船は沈没前に 救出されましたが、10万米ドルの損害を被りました。 シーシェパードは今年の2月に、 ノルウェーのミンククジラ捕鯨船を再度沈没させようとしました。

シーシェパードは米国で慈善団体の登録をしており、こちらでは免税特権を享受しています。 ノルウェー外務省は、シーシェパードのテロ行為を止めさせるように米国当局に要請しましたが、 現在まで一切返答がありません。 ノルウェーでのシーシェパード事件の第 1 審は 5月30日 に行われる予定です。

レーヌの 7隻の漁船は、ミンククジラ捕獲許可をノルウェー政府から受けています。 全体ではそうした許可は 34 にのぼり、そのうちの 3分の2 ほどはロフォーテン諸島の船舶です。 船舶の全長の平均は 65フィートで、乗組員は平均 4〜7人です。 彼らにとって捕鯨 はずっと昔から年収の 4割程度を占めてきました。 どの船舶も家族経営です。  ミンククジラ捕獲許可は家族に与えられ、代々受け継がれてきたのです。

ミンククジラ漁期は 5月から 8月まで続きます。 これによってタラ漁の休漁期を補完できます。 冬季のタラ漁期には皆忙しいのです。 休漁期、特に夏の間は我国の沿岸では魚を見つけるのが 困難で、季節的な失業率が高いのです。

ミンククジラの肉は美味だと考えられています。 少なくとも私が知る限り、この肉が一番 おいしいです。 私達が作成したミンククジラ捕鯨についての新しいパンフレットには、 私が作った料理「グリーンピースをあしらった鯨ステーキ」が載っています。 この肉はとりわけ 地元で珍重され、大量に食べられていますが、国内販売もされています。 政府は輸出を 100% 禁止しています。 現在ブラバーは貯蔵されています。 1987年に中止されるまでは、ブラバーは日本に輪出されていました。 日本人はブラバーを軽食として食べるのです。 我国にはブラバーを食べる習慣はありません。 現在、鯨油は魚油よりも心臓疾患防止に 有効だということを示すエキサイティングな研究が続けられています。 これにより、ブラバーの新たな市場が生まれるかも知れません。 また、鯨肉にはコレステロールを減らす脂肪酸が含まれているため、鯨肉は非常に 体にいいのです。

ミンククジラ捕獲は非常にエネルギー効率の高い食肉生産方法です。 汚染もなく、肥料も 成長ホルモンもいらず、殺虫剤も不要です。 産業型農業で食肉を生産する場合にみられる 環境問題は一切ありません。 また、農業での生産は持続可能でない場合がしばしばあります。

先に述べたイギリスの環境映画制作者ブライアン・リースは、フェロー島民の実験的捕鯨 について、「私達の新しいグリーンバイブルを読めば、自国領海に回遊してくる自然資源の 持続可能かつ人道的な利用こそが環境維持の本質だということに気がつくだろうと考える。」 と書いています。 海洋哺乳動物の捕獲についての唯一の生態学上の問題は、捕獲量が 資源の再生能力の限度内におさまっているかどうかということです。 現在の捕鯨活動自体が生態系に及ぼす影響は軽微です。

ノルウェー漁民が昨年捕獲したミンククジラの頭数は 157頭でした。 調査捕鯨を含む クォータ総数は、北大西洋のミンククジラ資源量 86,700 頭に対して 296 頭でした。 この数字は、国際捕鯨委員会(IWC)の科学委員会が全員一致で受け入れた推定資源量です。 ここにお集まりの皆さんの多くがご存知のように、IWCの科学委員会は、資源枯渇防止を 主な目的として捕鯨規制算定法を作りました。 この捕鯨クォータ算定モデルについては、 2年前に IWC が承認しましたが採用されませんでした。 昨年設定されたノルウェーの ミンククジラクォータは、IWCのクォータ算定モデルを使って割り当てとした場合の 最低クォータよりも少なかったのです。

北大西洋と南半球のミンククジラ資源に関して、レイ・ギャンベル IWC事務局長は ロンドンタイムズ紙に対して、「当然のことだが商業捕鯨はミンククジラを絶滅の危険に 陥れることなく行えると断言できる。」と述べています(1993年5月14日)。 ギャンベル博士は、IWCの推定では南半球の76万頭、北大西洋の 11万 8千頭を含め、 世界の海洋には現在、ミンククジラが約 90 万頭生息していると報告しています。

ノルウェーのミンククジラ捕鯨が昨年再開された時に、船舶毎に一人の獣医検査官が 乗船しました。 各船舶には設定されたクォータが割り当てられました。 ノルウェー政府は、IWCも国際オブザーバーを乗船させるように提案しました。

きわめて控えめな捕獲規制、抑制策、それに将来の捕獲規制を判断するモニタリングおよび フィードバック・メカニズムの組み入れによっても、私達のミンククジラ捕鯨が維持可能である ことにはとんど疑いの余地はありません。 また、IWCのモラトリアムが今なお実施されているに しても、ミンククジラ捕鯨は国際法上合法でもあります。 モラトリアムは遅くとも 1990年までに見直しを完成する予定でした。 ノルウェーは国際捕鯨取締条約第5条に従って、IWCのモラトリアム決定に対して異議申し立てを 行っています。

海洋哺乳動物の持続可能な利用の権利は国際捕鯨取締条約だけでなく、国連海洋法、UNCEDの アジェンダ 21、それに文化経済社会的権利に関する国際憲章でも確認されています。 さらに、文化的多様性の重要性、とりわけ地域の生活様式、食生活等の人々が住む広範な環境に 最も直接的に関連している多様性の重要性は、野生種の維持可能な利用に対する世界の 倫理的価値を明確にする IUCN の継続的努力で強調されています。

それにもかかわらず米国は、ノルウェーに対して貿易制裁を発動すると脅しています。 去年の10月にクリントン大統領は議会に対して、「ノルウェーの行動は、ペリー修正法で 認められた制裁を正当化するに足るほど深刻である。 したがって私は、制裁リストを 作成するよう指示した。」と報告しました。 この報告の結論は、制裁を発動する前にもう1度、 ノルウェーに捕鯨を停止するよう説得の努力を続けるというものです。

科学的論点、持続可能性および国際法の問題は、米国哺乳動物政策には あまり意味をもちません。

国際捕鯨取締条約第5条に従って異議申し立てを行う権利が存在し、またノルウェーも米国も 捕鯨条約の調印国であるという事実にはなんら見解の相違はないのですが、米国はそうした ノルウェーの異議申し立てを尊重していません。 そうするかわりに米国は、 「IWCの効果を損なう。」と自国が考える行動を裁き、制裁する権利を一方的に自らに 付与したのです。 米国は IWCの警察として行動する権限を IWCからも他のどの国際機関からも 付与されていません。

米国は今、イギリス、ニュージーランド、オーストラリアと共に、モラトリアムの解除と 捕獲枠設定を阻止しています。 そうするには、4分の3の多数が必要です。 ギャンベルIWC事務局長は、昨年5月の欧州議会への報告で、こうした国々が、一定の条件が 満たされた場合にのみ商業捕鯨を再開できるとするそれまでの立場から、 「たとえこうした条件が満たされたとしても、商業捕鯨の再開に反対する。」という 新しい立場に移行したことは明らかだと述べています。

これは米国が一方で IWCに捕獲枠を設定させず、他方でノルウェーが IWCの捕獲枠設定を 待たないから制裁するとノルウェーを脅すという、鯨版「キャッチ22」といえましょう。 (訳注:キャッチ22・・・錯綜した法による金縛り状態)。

米国の海洋哺乳動物保護法は、米国領海内での海洋哺乳動物のあらゆる捕獲行為を、原則として 禁止しています。 しかし、土着民による生活維持のための捕獲については、きわめて限定的な 例外を設けています。 さらに海洋哺乳動物保護法は、「海洋哺乳動物の保護・管理に関する 国際協定を、(海洋哺乳動物保護)法の目的と方針に合致させるために」、そうした国際協定の 改正を提案するように、米国政府に命じています。

分かりきったことを申し上げて済みませんが、全ての海洋哺乳動物の捕獲の全面禁止には、 米国水域においてさえ、科学的・生態学的正当性がありません。このことは、文化的理由から、 海洋哺乳動物保護法の禁止事項への例外を設けることで確認されました。

科学的調査の結果、持続可能な捕獲が可能だという結論が得られ、また厳しく規制された 商業捕鯨実施の可能性がみえてくると、米国の政策では倫理的な考察や米国世論が引き合いに 出されます。 1993年5月のアイスランドとノルウェーへの覚え書きで、米国国務省は、 「科学的分析の結果、ミンククジラの資源量は、限定的な捕鯨に耐える可能性があるので、 米国政策を見直す時期だった。 下院の捕鯨禁止決議が満場一致だったことで明らかなとおり、 米国議会や世論は商業捕鯨を支持していない。 したがって米国は、沿岸・遠洋を問わず一切の 商業捕鯨再開を支持しないことを決めた。」と述べています。 この立場は日本の京都で開催された第45回 IWC 年次会議に対する米国コミッショナーの 開会の辞で繰り返されました。

IWCの根本原理である国際捕鯨取締条約では、IWCの決定は「科学的根拠に基づき、 捕鯨業界の利益と鯨製品の消費者の利益を考慮するものとする。」と規定されています。 ニュージーランドの IWCコミッショナーは、昨年ニューヨークタイムズ紙に苦情を呈した際、 この鯨製品利用賛成の立場について、「条約そのものの目的は捕鯨促進である。」と 述べています。 1946年に調印された同条約の目的は捕鯨産業を崩壊させることでなく、 維持可能なレベルまで捕鯨を規制し、枯渇した資源を可能なレベルまで回復させることによって、 捕鯨を息の長い健全なものにすることでした。 そうではないと思われるなら、条約の本文を読んでいただきたい。

米国海洋哺乳動物委員会は、その専務理事ジョン・トウィスから国家海洋大気局に宛てた 1991年12月の書簡で、海洋哺乳動物保護法と国際捕鯨取締条約との間に存在する対立を指摘し、 米国政府が「海洋哺乳動物保護法に合致するように」捕鯨条約改正の努力をするよう 勧告しています。 この勧告の内容はいまだ実現しておらず、1946年に起草された条約は今なお有効です。

IWCにおける米国の賛否表示は、米国自身が調印した国際捕鯨取締条約よりも、 鯨と捕鯨についての知識の不十分な(そして間違った情報を与えられた)自国の世論に、 より重点をおいています。 自然資源の保護・管理の国際協力は国際協定尊重に基づかなくては なりません。

海洋哺乳動物管理についての対立は、全ての野生種の保護・管理のための国際協力の原則にとって きわめて重要です。 今日ではそうした協力の基礎は、持続可能な利用と生物多様性の保護の 原則にあるという明確な合意があります。 また、国際的な管理決定は科学に基づかなくては ならないという、これまた明確な合意もあります。 今年1月の IUCN 総会では、野生種の維持可能な利用のためのガイドライン提案が 否決されました。 その提案されたガイドラインには、 「全ての種が人間による利用の対象になるとみなすべきではない。」とのパラグラフが ありました。 これがもし可決されていたら、米国の海洋哺乳動物政策へのイデオロギー的支援と なっていたことでしょうが、一方で国際環境協力の現行の原則を踏みにじり、 力による専制への道を大さく開くことにもなったでしょう。

IWC内の米国の立場が「科学のみ」に依存してはいないという理由を説明するために、 米国海洋哺乳動物保護法の立法経緯が使われます。 海洋哺乳動物委員会が NOAA に宛てた 1991年12月の書簡では、「同法が海洋哺乳動物の捕獲を禁止ししている根拠には、 経済的懸念、生物学的懸念、あるいはその他の科学的懸念だけでなく、倫理的背景もある。」 と述べられています。

海洋哺乳動物の商業的利用を禁止する倫理的背景とは何なのでしょうか? 野生であると飼育されているものとを問わず、陸上哺乳動物についての米国の政策をみると、 同じ扱いをしていないことは明らかです。 私はこの点でかなりの努力を続けてきましたが、 倫理的論拠を進んで示した米国政府関係者に、私は一人として出会ったことがありません。 その存在はしばしば耳にしますが、私は一度として公式文書でお目にかかったことはありません。

海洋哺乳動物救済運動で倫理的論拠には何ら説得力がありません。 それは、「アザラシと 鯨を除いて、全ての動物は平等だ。」というジョージ・オーウェルの「アニマル・ファーム」 からのスローガンの修正版で要約できます。 海洋動物は他の動物種より頭がよく、より おとなしく、より複雑な社会構造をもっているという仮定には、事実の裏付けも科学的根拠も ありません。 これはイルカについても同様です。

米国 IWC 代表団の元メンバーで国際鯨類協会のロビンス・バーストウ氏は、商業捕鯨禁止を 理論的に説明するにはもはや不十分だと彼自身が認める生態学的論拠のかわりに、 クジラの「特別のユニークさ」をクジラ保護のための新たな論拠としています。

米国政府関係者が動物福祉論を持ち出さない理由を私は理解できます。 ノルウェーのミンククジラ捕鯨は、米国のほとんどの捕獲よりも致死時間がはるかに短く、 しかも動物が傷を負う割合が小さいのです。 これは正しい見解だと私は確信していますが、 これを証拠書類で証明することは困難です。 過去2年間のミンククジラ捕鯨の際の屠殺は 全て記録されていますし、統計は公表されています。 しかし、私が知る限りでは、 そうした記録を種々の米国の捕獲活動から入手することはできません。

いくつかの基本的な価値観に基づいて、許容できる人間活動の現実的基準を設定することは、 倫理論争の中心的課題です。 それと同時にダブル・スタンダードを避けることもまた倫理の もう一つの必須条件です。

動物福祉という勧点から海洋哺乳動物の捕獲を禁止しようとするなら、より非人道的状況 としてしか形容できない牛肉、羊肉、鶏肉、それに乳製品を大量生産する現代の産業的牧場を 禁止し、その他の捕獲全部を禁止する必要があります。 デンマークの哲学者で、 デンマーク動物福祉協議会の会長でもあるピーター・サンドー氏は、「私は、豚や鶏に なるくらいなら苦痛の最後の数分間まで自由に活きるミンククジラになりたい。」と 述べています(ディレヴェネン、1993年)。 イギリスのテレビジャーナリストで環境保護論者 でもあるデービッド・ベラミー博士は、さらに率直に「肉を食べるか、菜食主義者になるかの 二者択一の道しかない。」と語っています。

アラスカ土着民のホッキョククジラ捕鯨における屠殺は、あらゆる点からみてより非行率的 であるにもかかわらず、昨年の IWC会合で米国は、フェロー漁民の実験捕鯨における屠殺法を 批判する決議で、賛成票を投しました。 米国で使用される黒色火薬爆発銛のかわりに、 はるかに効率的なノルウェーのペンスリット爆発銛を使うようにするための、ノルウェーの 専門家とアメリカ土着捕鯨者との間の協力関係がありました。 その結果は実に有望でした。 苦痛を与えることがより少ない屠殺技術へのこうした進展は、昨年無期延期されました。 ノルウェー側が協力継続を望んでいることは明らかです。 こうした努力を止める唯一の 考えられる理由は政治的なものです。 ノルウェーに捕鯨を止めさせるためにノルウェー製品を ボイコットすると脅しながら、ノルウェーから輸入した爆発銛に依存するのは、米国にとって 難しいのです。

もし皆さんに私の希望を申し述べることが許されるなら、このように申し上げましょう。 海洋哺乳動物の商業的利用に反対する倫理的根拠を示してください。 論争をしましょう。 私達はそれを望んでおり、また米国海洋哺乳動物政策にもそれが必要だと私は思います。 この論争は、人間と動物との関係にとどまらず、異なる文化と社会との間の関係にまで 及んでなされるべきです。

現在は、文化的な先入観が倫理観と取り違えられていると私は考えます。 ほとんどの西洋社会で、豚肉を食べ、豚を屠殺する前には豚相応の扱いをしておきながら、 犬をペットとして飼育し、時には高価な葬式まで出すほどの最高の扱いをする理由を説明できる 倫理的根拠はないのです。 自らの文化的性向を他人に押しつけるのは帝国主義です。

米国の世論と米国政府は、レーヌの台所からのにおいは、自分のシチュー・ポットからの においとは少し違うという事実に寛容になるべきだと、私は考えます。 そうすれば、オスロの 町でミンククジラのサンプルの味見をしたあるアメリカ人ツーリストが発見したことに 気づくようになるでしょう。 彼はノルウェーのラジオ局に、「ミンククジラの肉がこんなに うまいなんて!」と語ったのです。

鯨救済運動はかつて、環境保護運動の中でも最も活発なものでした。その目標は、 世界の鯨の将来を確保することであり、それにふさわしい結末を達成することでした。 マスメディアは最近「鯨の増加」について報道をするようになりました。 2年前にコククジラは絶滅の危機に瀕した米国の種のリストから除外されました。 コククジラは、捕鯨開始前のレベルにまで回復したのです。

私は、過去の産業捕鯨の乱獲の悲しい歴史を知っています。 しかし、過去の亡霊に現在の 決定をさせてはなりません。 わずかな例外を除けば、北大西洋の海洋哺乳動物資源の 産業的乱獲者達は、この地域社会の人達ではなく、南からやってきたのです。 こうした資源を現在と将来の利用のために保護することに私達は確たる関心を抱いています。 鯨油工船は、ずっと前にスクラップになりました。 この産業の経済的な推進力となった鯨油市場は消滅しました。

もし海洋生物資源の商業利用について、持続可能だと予測できるものがあるとすれば、 それは IWC改訂管理方式に従い、国際オブザーバー監視下におかれた商業捕鯨です。 世界中の耳目はこの活動に集まるでしよう。

緊急に対処しなくてはならない多くの環境問題があります。しかし、環境問題には新たな 象徴が必要です。 今や強力な神話研究の開始により、「鯨」は実世界の象徴ではなく、 想像の産物であることが明らかになりました。 鯨救済運動は、もはや青々とした葉では ありません。 その枯れ葉を落とし、新世代の環境問題を解決するために、そのエネルギーを 再生利用しようではありませんか。

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