ワシントン条約(CITES - サイテス)Q&A

(海の幸に感謝する会 1994年発行のブックレットより)




Q1  ワシントン条約(CITES)とは、どんな条約ですか。

A1  正式名称は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引 に関する条約」で、日本ではワシントン条約、外国では CITES という通称が好んで使われています。 この条約は、無制限な商業取引が野生生物の種の生存にとって大きな脅威になっている という認識から、絶滅のおそれのある野生生物とその製品の国際取引を規制することを 直接の目的としています。 条約には、付属書 I、II、III の付表があり、規制の度合いによって 条約対象種が分類されています。 条約が発効したのは1975年で、日本は60番目の締約団として1980年に加盟しました。 現在の加盟国数は122ケ国です。


Q2  現在、どのような種が主に取引規制の対象になっていますか。

A2  付属書 I には、絶滅に瀕している種であって、取引による影響を受けているか または受けるかもしれない種が掲げられ、科学目的など一部の例外を除いて、 国際取引がいっさい禁止されています。 ゴリラ、チンパンジー、ミンククジラ、トラ、アフリカゾウ、サイ類、 オオサンショウウオなどが付属書 I に掲載されています。 また、付属書 II の種は 現在必ずしも絶滅に瀕していないが、取引を規制しないと将来、絶滅する可能性の ある種が掲載されることとなっています。 これらの種は商業目的の取引が認められていますが、輸出国、再輸出国の 許可証の発行が条件となっており、無制限な取引が規制されています。 付属書 II の代表的な種は、ヒグマ、メガネカイマン、ほとんどの猛禽類、ラン類、 サボテン類などです。


Q3  現在、取引が規制されている種の中で、絶滅のおそれのない種も あると聞きますが、どのような種ですか。 また、そのような種を規制の対象から外すことはできないのですか。

A3  付属書 I には、絶滅のおそれのない種がかなり掲載されています。 「絶滅のおそれ」という定義があいまいなために、意見の相違はありますが、 南部アフリカのアフリカゾウ、アオウミガメ、 インドオオトカゲ、ミンククジラなどは、絶滅のおそれはないものといわれています。 付属書の内容は 2年半 ごとに開催される締約国会議で見直しの対象になっています。 付属書の内容を改正するには、締約国がその種の生息状況などを記載した提案書を 事前に CITES 事務局に提出する必要があります。 過去の経緯からいって、付属書 II から I へと規制を強める提案は比較的かんたんに 認められますが、逆に付属書 I からII へと規制を弱める提案は採択が困難なのが 実情です。


Q4  CITESの取引規制の基準は、どのような基準・手続きによっておこなわれているの ですか。

A4  条約の条文では、付属書への掲載基準があまりはっきりと規定されて いませんでした。 このため、1976 年にスイスのベルンで開かれた第1回締約図会議で付属書掲載基準に 関する決議が採択されました。 これがいわゆるベルン基準で、種が付属書に掲載されるためには、生物学的基準と 取引基準を満たしていなければなりません。 付属書 I に掲載される種は現在、絶滅の危機に瀕していなければなりません。 そして個体数、分布、生息環境の破壊などの諸情報の提出を必要とします。 その種が生物学的な基準を満たしており、もしその種が国際取引によって影響を 受けているか、もしくは受けるかもしれない場合、付属書 I 掲載の基準を 満たすことになります。


Q5  海の種(漁業対象種)については、それぞれの国際管理機関で資源管理が なされていますが、CITES との関連はどのようになっていますか。

A5  CITES と海産の種の国際管理機関との関連については、条約の条文で 規定されています。 まず、CITES 事務局が海産の種に関する付属書改正案を受けとった場合、 国際管理機関と協議し、その機関が提供する見解と資料を各締約国に通告しなければ なりません。 また、漁船が属する国が、CITES の付属書 II の海産種について保護措置を講じている 他の条約または国際協定の加盟国になっている場合、その漁船が捕獲した海産の種の 取引については、CITES の義務が免除されることになっています。


Q6  国連環境開発会議(地球サミット)で、「資源の持続可能な開発」が世界の合意と なっていますが、CITES はその原則に沿っているのでしょうか。

A6  CITES は、条文の前文に「野生動植物についてはその価値が芸術上、科学上、 文化上、レクリエーション上および経済上の見地から絶えず増大するものである」 と述べられているとおり、経済上の価値を認識しています。 また、付属書 II に掲載されている絶滅のおそれのないものについては、商業取引が 認められています。 しかし、必ずしも地球サミットで合意された「持続可能な開発」の原則に 沿っているわけではありません。 たとえば、持続可能な利用ができるものであっても、付属書 I から II に 規制解除するのが困難であったり、この条約は国際取引に関するものであって、 国内の持続可能な利用のプログラムのあり方に影響を及ぼすことはできません。


Q7  CITES には、環境団体等の NGO(非政府機関)が加盟しているため、 第二の IWC(国際捕鯨委員会)との批判もあるようですが、その影響力は どの程度ですか。

A7  CITES にも IWC にも、環境団体などの NGO は加盟できません。 しかし NGO はこれらの機構の総会に、オブザーバーとして参加できることに なっています。 CITES と IWC の違いは、オブザーバーの発言権が前者は認められている一方、 後者は認められていないことです。 そういう意味では、CITES の方が NGO が影響力を行使する機会は大きいといえます。 実際、過去の締約国会議で、NGO が影響をおよぼしたとみられる決定が 数多くあります。 いずれにしても、NGO の影響力の点では、CITES も IWC も同じような方向に 進んでいるとみていいでしょう。


Q8  最近、規制対象として特に問題になった種、また今後、問題になると予想される 種に、どのようなものがありますか。

A8  最近、特に大きな問題になった種に、アフリカゾウとクロマグロがあります。 アフリカゾウは 1989 年の第 7 回締約団会議で付属書 I に掲載され、象牙などの 取引が禁止されました。 ゾウの管理が行き届いている南部アフリカはこれを不服として、京都で開かれた 1992 年の第 8 回締約国会議に、南部アフリカのゾウを付属書 I から II に移すよう 提案しました。 しかし、会議の場で勝ち目がないとみた南部アフリカは、この提案を撤回しました。 京都での合議では、クロマグロも大きな問題になりました。 この会議に向けて、スウェーデン政府は、西大西洋のクロマグロを商業取引禁止、 東大西洋のクロマグロを許可制にしようという提案を提出しました。 カナダ、米国、日本など関係国の反対により、スウェーデン政府はこの提案を撤回し、 提案は通過しませんでした。 今後も、この 2 種が問題になると思われます。 さらに、最近は、いわゆる野生生物だけでなく、林産資源や水産資源も規制の対象に しようという動きがあります。


Q9  CITES では現在、取引規制の基準を見直していると聞きますが、主な改正点は どこですか。

A9  1992 年に京都で開かれた第 8 回締約国会議で、現行の付属書掲載基準 (通称ベルン基準)では客観的な掲載あるいは削除ができないとして、基準を見直そう という提案がありました。 これにもとづき、CITES 常設委員会が中心となって見直しを進めてきました。 特にリスティングにあたり、科学的で定量的な基準を設けたことと、基準に合わずに 掲載されている種については、ダウンリスティングや付属書からの削除を容易にした ことが主な改正点です。 最新の基準案は、ベルン基準よりもかなり客観的になっており、歓迎できますが、 この案がそのまま 11 月にフロリダで開催される第 9 回締約国会議で採択されるか どうかは、わかりません。


Q10  CITES は世界の多様なニーズと問題を抱えた中で、今後どような方向に 進もうとしているのですか。

A10  非常にむずかしい質問です。 林産資源や水産資源など、新たな種を規制対象にしようという動きがある一方、 きびしい規制は必ずしも種の保護に役立たないという考え方もあります。 たとえば、京都の会議では、「締約国会議は当該種の生存に有害でないレベルで おこなわれるならば、商業取引は種と生態系の保護、および地域住民の発展の いずれか、もしくは両方にとって有益となるであろうことを認める」という内容の 決議が採択されました。 しかし NGO の力を背景に、個体数が豊富であってもいっさいの利用を認めない勢力も 非常に強く、いずれの方向に動くかは今後、注意深く見守っていく必要があります。


ClTES関連年表

1973 年 ワシントンで条約採択される
1975 年 ワシントン条約が発効する
1976 年 第1回締約国会議、スイス・ベルンで開催される
1979 年 第2回締約国会議、コスタリカ・サンホセで開催される
1980 年 日本、60番目の加盟国になる
1981 年 第3回締約国会議、インド・ニューデリーで開催される
1983 年 第4回締約国会議、ボツワナ・ハポロネで開催される
すべての大型クジラが付属書 I に載る
1985 年 第5回締約国会議、アルゼンチン・ブエノスアイレスで開催される
1987 年 第6回締約国会議、カナダ・オタワで開催される
日本、サバクオオトカゲ、アオウミガメの留保撤回
1989 年 日本、ジャコウジカ、イリエワニの留保撤回
第7回締約国会議、スイス・ローザンヌで開催される
アフリカゾウ、付属書 I に掲載される
1992 年 日本、インドオオトカゲ、キイロオオトカゲ、ヒメウミガメの留保撤回
第8回締約国会議、日本・京都で開催される
掲載基準を見なおす決議が採択される
1994 年 第9回締約国会議、米国・フロリダで開催予定

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