大和煮の缶詰

★ 赤身
昔、商業捕鯨時代の末期、一人暮らしを始めて間もない頃には、よく鯨の赤身の大和煮の缶詰を食べた。 日本が商業捕鯨の一時停止(モラトリアム)を受け入れる直前の最後の操業でも、南氷洋で1941頭(1986/87シーズン)、日本の沿岸で304頭(1987)のミンククジラが捕られていた。 また、今年から日本の北西太平洋での調査捕鯨の対象に加わったニタリクジラも、IWCの分類では世界の大半の系統群は枯渇の恐れがない初期管理資源(Initial Management Stock - IMS)であり、日本近海での最後の商業捕獲量は314頭(1987)であった。 そのため、当時はヒゲ鯨の缶詰といえば、何ら高いものではなく、私もサケ缶などと同様に頻繁に食べていた。 商業捕鯨が停止して供給量が激減した後は、一時マトン(羊肉)の缶詰に切り替えられていたが、今ではマトンの缶詰を見かけることはない。

上の写真は、右側がミンククジラ、左が歯鯨類であるツチクジラの大和煮で、共に缶詰で売られている。 見てのとおり、色は全然違うが、一切れずつ交互に食べたところでは、味の違いは判らなかった。 以前、歯鯨の缶詰を食べて、「ヒゲ鯨とは違うなあ」と思った事があったが、断定はできないものの、他の歯鯨(イルカも含めて)のものらしい。 ただ、同じミンククジラの大和煮でも、メーカによってけっこう味付けに違いがあるようではある。

最近、近所のコンビニで見かけたミンククジラの大和煮の缶詰は、固形量110グラム(総量160グラム)のものが455円である(ちなみに、東京都内の、若者でにぎわう某安売り店では、山積み状態で398円で売られていた。 常時在庫を確保してこの価格で売っているのかどうかは不明だが)。 以前同じコンビニで売っていたのはこの半分程度の小さな缶で固形量50グラム(総量70グラム)が350円程度だったため、価格が割高であって食べ応えも物足りなく、正直言って、あまり買うことはなかった。


★ 須の子
なお、最近は鯨の缶詰というと、上の取り上げた赤肉の大和煮や焼肉が主だが、以前は「須の子」もよく見かけた(他にも色々あったようである)。 値段が高かったので(80年代半ばで固形量で100g近いものが500円程度していたように思う)、「どんな味がするのだろう」と思いつつ棚の前を素通りしていたのだが、ある日、思い切って試してみたら、脂がトロリとして美味しく、すっかり気に入って給料日の後などには買っていた憶えがある。

「また食べてみたい」と思っていた須の子の缶詰だが、最近デパートで見かけるようになったので買ってみた。 価格は、私が買った某デパートでは800円台であったが、ネット上で検索するともっと安く売っている所もある。 消費者の立場で感想を率直に言えば、「昔に比べると、脂身が少なくて物足りない」というところだろうか。 下の写真に見えるように、肉の合間のところどころに黄色っぽい脂身があって柔らかいものの、80年代半ばに食べた、トロリとした脂身が中心の須の子とは、かなり食感が違う。 今回のは、他の大型ヒゲクジラに比べると肉質に脂が少ないミンククジラの須の子だからなのだろうか(80年代当時はニタリクジラも日本近海で年300頭以上捕獲されていたが、当時の須の子の缶詰には鯨種までは明記されていなかった)。 それとも、鯨肉の供給量が少ない状況で、質の点で妥協せざるを得ないからだろうか。 より大型のニタリクジラの須の子の缶詰も売られているようなのだが、まだ見かけたことがなく、試してみたいところである。

と思っていたら、偶然に思いがけず某スーパーで売られているのを見つけ、迷わず買ってみた。 価格は900円台で、内容量は固形量120g、総量180gとミンククジラのものより多めであった。 結果は下の写真のとおりで、ゼリー状の脂身がけっこうあり、昔食べた須の子の缶詰の印象にかなり近い。 やはり、80年代半ばに食べたのは、ニタリクジラのものだったのだろう。 価格はミンククジラの須の子の缶詰よりは高かったが、納得できる違いではある。

(2003年12月7日 更新)

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