商業的鹿猟がイギリスの二重基準を露呈する

(HNA(ハイ・ノース・アライアンス)発行 "The International Harpoon"(2001年7月)からの訳。 06-Mar-2002。
原題:"Commercial Deer Hunt Exposes UK Double Standard")




「商業事業としてのノルウェーのミンク捕鯨は、その捕殺の質について動物福祉上の厳格な管理下に置かれなければならない。」とイギリス政府は言う。 だが、彼らは同様の基準を自分達の商業的な鹿猟に当てはめるつもりはないようである。

イギリスの漁業相にして「倫理の指導者」でもあるエリオット・モーリー(Elliot Morley)は商業捕鯨者について「単に受け入れられないだけだ」と7月2日にBBCラ ジオに語った。 彼の言い分は、前任者の一人で捕鯨における捕殺が家畜の捕殺における動物福祉上の基準を満たすことを求めたジョン・ガマー(John Gummer)からの受け売りである。 ほとんどガマーと同じ言葉づかいで、モーリーは捕鯨を「牛を死ぬまで野原を引きずり廻して殺すようなもの」と描写する。

むろん、ノルウェーでは鯨が死ぬまで海で引きずり廻しているわけではない。 爆発銛の機能というのは全く違ったものである。

だが、それはさておき、なぜガマーとモーリーはリンゴと梨を比較するような事を主張するのだろうか? 捕鯨を畜産業は共に商業性を持つという単純な事実が、両者が共通の基準を持つべきだと要求するのに十分だというのであろうか? そして、なぜイギリス政府は捕鯨と鹿猟を比較するのを避けたがるのだろうか?


「関係がない」

我々がイギリスの鹿猟の実態を明らかにしたのは1995年にさかのぼる。 我々は、ノルウェーの捕鯨よりもはるかに売上の多い、彼らの鹿猟の商業性を白日のもとにさらした。 我々はまた、ノルウェーの捕鯨で適用されている厳格な人道的捕殺基準と、イギリスの鹿猟におけるそのような基準の欠如をも明らかにした。

IWCにおける当時のイギリスのコミッショナーのルウェラン氏(C.I. Llewellyn)との書簡 のやりとりにおいて、我々は、イギリスの様々な狩猟における致死時間、動物が経験するストレスの度合い、動物が怪我を負って逃げおおせる頻度、などの情報を求めた。

また、スポーツ・ハンティングにおいて商業狩猟よりも甘い動物福祉基準が課せられることの正当性についても訊ねた。

だが、これらのうち、どれひとつとして、返答はなかった。 「これらは捕鯨を考える上で関係があるとは思われないので、情報を差し上げる気はありません」とルウェランは書いた。

我々が上のような事を明らかにしてから数年は、「捕鯨は動物福祉的観点から道徳的に認められない」というイギリスの主張は鳴りをひそめた。 だが、モーリーがガマーの二重基準を再生させたため、我々は再びイギリスの鹿猟を洗いなおすことになった。

1995年と1996年発行のHarpoon紙を持っていない、モーリーやその他の人々のために、イギリスがノルウェーの捕鯨に要求する基準、イギリスの鹿猟における基準の欠如、そしてノルウェーの捕鯨で現実に適用されている基準について、今現在のあらましを紹介しよう。 読者の方々には、捕鯨に対するイギリスの判定がある原則に基づいたものなのか、それとも二重基準なのかを再び判断していただこう。


動物福祉的な必要条件

− イギリスが捕鯨国に要求している事柄 −

「人道的捕殺がどういうものかを定義するのが難しいのは認める。 人道捕殺の目的は、陸上の家畜の屠殺同様に、瞬時に鯨が痛みを感じないようにし、死ぬまでになるべく痛みやストレス、苦しみを与えないようにする事である。 これが100パーセントのケースで達成できそうにないことはわかるが、この基準に達しないことは受け入れられない。」 (イギリスのIWCコミッショナーC.I. ルウェランが1995年に我々ハイ・ノース・ア ライアンスに宛てた返事)

− イギリスが自国内での鹿猟に要求している事柄 −

スコットランドでの鹿猟を行ないたいハンターは、狩猟の技量を事前に示す必要はな い。 必要なのは銃器の許可証、銃、それに使う弾が適当かどうかである。 狩猟の実態を当局が調査することを求める法律や条例はない。 スコットランドの高地では、プロのガイドがハンターに雇われて付き添うことは多いが、ハンターは獲物への最初の一発は自分の好きに撃てる。 また、スコットランドの南では、アマチュア・ハンターは通常単独で狩猟する。

− ノルウェーが自国の捕鯨者に要求している事柄 −

砲手は毎年実技試験に合格せねばならず、また人道的捕殺の規則のコースを受講せねばならない。 合格しなかった者は砲手として働くことは認められない。 各捕鯨船には、訓練を受けた獣医でもある政府の監視人が同乗する。 監視人の仕事は正しい捕殺法を実施させることにある。


報告

− イギリスが捕鯨者に報告させようとしているもの −

2001年1月15日付でIWCに送られた書簡によると、イギリス政府は捕鯨者が次のデータを集めるべきだとしている。

 捕鯨砲発射時の鯨までの距離。
 撃たれた鯨の挙動。  致死時間(撃った瞬間から死んだと思われる時点まで)。
 銛が当たった場所の記録とその写真。
 爆発銛がちゃんと爆発したかどうかを、体内の損傷をもとに調査。
 また、銛の命中箇所に応じて、肺、頭骨、脳、血流、脊髄、など体内の組織も調査。

  − イギリスが鹿猟のハンターに報告させているもの −

何もない。 データ収集が求められていないので、捕殺が人道的に行われているかどうかも不明である。

− ノルウェーの捕鯨で報告されているもの −

1989年以降、捕獲されたすべての鯨は記録されている。 捕獲統計は毎年編集され、公刊されている。 2000年の漁期には鯨の平均致死時間は136秒で、78パーセントの鯨は瞬時に死んでいる。 これは、スウェーデンでのヘラジカ猟より短いノルウェー国内でのヘラジカ猟に比べても、更に短い時間である。


商業狩猟

− イギリスにおける定義 −

我々の度重なる要求にも関わらず、イギリス政府は商業的狩猟と畜産業を区別することを頑なに拒んできた。 「我々の見解では、捕鯨は商業的な行為であり、動物福祉的な基準は陸上の畜産業におけるそれと同等であるべきである。」 (イギリスのIWCコミッショナーC.I. ルウェランが1995年に我々ハイ・ノース・ア ライアンスに宛てた返事)

− イギリスの鹿猟における商業性 −

1995年にはイギリス産の鹿肉の80パーセントがオランダ、フランス、ドイツなどへ輸出された。 同じ年、スコットランド鹿委員会は鹿猟が、狩猟許可証やガイド料も含めて、600万ポンドの収益をもたらしたと推定した。 モーリーの7月2日のラジオ・インタビューに対して、我々には鹿肉の輸出が今では年間200万ポンドである事以外に最新のデータを集める時間がなかったが、その商業価値が過去6年で下がったと信ずるに足る理由はない。

− ノルウェー捕鯨の商業的価値 −

昨年、ノルウェーのミンククジラ漁の利益は150万ポンドだったが、日本向けの脂身の輸出が再開されれば増える見通しである。


資源量の知見

− イギリスが捕鯨国に要求している事柄 −

正確な資源推定値が捕獲数を設定する基礎でならなければならず、また、鯨が亜系群から捕獲される可能性も考慮に入れ、予防措置が設定されてなければならない。

− イギリスが鹿猟に要求している事柄 −

種の資源量については、大ざっぱな数値があるにすぎず、亜種レベルではほとんど何も情報が収集されていない。 スコットランド鹿委員会では、毎年異なる地域で様々な手法を用いて鹿の個体数調査を行っている。

− ノルウェーが行なっていること −

IWCの科学委員会ではノルウェーが捕獲しているミンククジラの2つの系統群について目視調査に基づく推定値を出している。 それに基づきノルウェーは、亜系群が存在する証拠がないにもかかわらず、念のために、亜系群から捕獲する可能性も考慮に入れて、小海域ごとに捕獲数を割り当てている。


捕獲割り当て

− イギリスがノルウェーに要求している事柄 −

イギリスは、ノルウェーの捕獲数がIWC科学委員会で安全と考えられている水準にあるにもかかわらず、捕獲数を削減するよう求めている。

− イギリスが自国の鹿猟に要求している事柄 −

政府は鹿猟について捕獲数に何も制限は設けず、目標数を勧告するのみである。 毎年の実際の捕獲数は全頭数の16パーセント程度と考えられている。

− ノルウェーが行なっていること −

ノルウェー捕鯨の捕獲割り当て数は推定頭数の0.5パーセントより低く、IWC科学委員会からの最良の情報に基づいてRMP(改定管理方式)に沿って設定されている。

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