フェロー諸島のゴンドウ鯨漁

(HNA(ハイ・ノース・アライアンス)発行 "Fact Sheet"(1995年)からの訳。 02-Mar-2002。
原題:"Pilot Whaling in the Faroe Islands")




共同体的非商業捕鯨
デンマーク領フェロー諸島でのゴンドウ鯨漁は、共同体レベルでの非商業的行為であり、地域社会に鯨の肉や脂肪を供給している。


伝統
ゴンドウ鯨漁は、フェロー諸島に人が住みついてから間もなく始まったと考えられている。 フェロー諸島の人々は、1000年以上前に海洋哺乳類を狩猟する伝統と共にやって来てた、古代スカンディナビア人移住者の末裔である。


記録
ゴンドウ鯨漁のほぼ完全な連続的記録は、1584年にまでさかのぼる。 これらの記録は、野生動物の捕獲に関する、最も長期間で完全な統計を提供するものとして独自の存在である。 それによると、長年における平均の年間捕獲量は約850頭である。 1993年、1994年、1995年における捕獲は、それぞれ806頭、1201頭、228頭であった。


資源推定量
1992年、IWCの科学委員会の推定では中部および北東大西洋に77万8000頭ほどのゴンドウ鯨が生息している。 この推定は、1987年と1988年にスコットランドのスティーブ・バックランド教授(Steve Buckland)が率いた科学者の国際チームの北大西洋目視調査航海に基づいている。


持続性
資源推定量と過去の捕獲の歴史を合わせてみると、フェロー諸島のゴンドウ鯨漁は疑いなく持続的であったし、今でもそうである。


規則
ゴンドウ鯨漁の規則では、フェロー諸島は9つの地区に分けられ、鯨のストランディングの条件を満たす合計22の湾が認可されている。 各地区では漁はその区の地区長官が管理し、認可されたそれぞれの湾には4名の現場監督が選ばれている。 規則には鯨をどのように捕殺し、どういう道具を用いて良いかが明記されている。



ゴンドウ鯨漁は、鯨の群れが陸地近くで目撃され、海面や天気の状況も問題ない場合にのみ実施される。 鯨の群れが目撃されると、あらかじめ選ばれた役人と地区長官に知らされ、十分な数の人とボートが参加できるように、情報は広域にすばやく広められる。 職場の雇用者は、労働者が漁に参加するために休むのは許容する。 ボートは鯨の群れの背後に半円状に集まり、ゆっくりと静かに群れをあらかじめ決められた湾へ追い込んでいく。 現場監督の合図のもと、紐を付けられた石が鯨の背後に投げられ、鯨を急速に浜辺へ追い込んでストランディングさせる。 規則によって、浜へ追い込まれなかった群れは、再び海へ追い帰されねばならない。


捕殺法
浜では男達が、打ち上げられた鯨を捕殺するために集まる。 大半の鯨は砂浜に打ち上がるので、体を固定する必要はない。 だが、浅瀬にいる鯨は素早く押さえて浜に引き揚げなければならない。 伝統的には、これはロープ付きの鉄製の鉤状の道具を鯨の皮下脂肪へ刺して行なわれた。 現在では鋭くない鉤を鯨の噴気口へ引っかけて行なう方法がテストされており、これまでのところ問題はなく、近い将来には旧来の道具に取って替わるかもしれない。 鯨は鋭いナイフでもって脊髄および脳へ繋がる大動脈を切断してとどめをさされる。

捕殺について文書に残すために行なわれた調査の予備結果(これまでのところ、130頭の鯨が捕殺された一回の漁が対象となった)、脳へ繋がる動脈を切るのに要した時間は平均36秒であった。 浜へ引き揚げなければならなかった鯨に関する限り、道具で引っかけられてから実際の捕殺が開始するまでは平均80秒を要した。 この最後の数字は、代表的というよりはたぶん大きいだろう。 というのは、この漁が行なわれた際には浜に大量の鯨がいたため、作業に手間どったからである。


分配
獲物は漁に参加した人と捕鯨が行なわれた湾や地域の住民で、各地区に特有の複雑な伝統的な分配法で分けられる。 分配の過程も、その区の地区長官が管理する。 大多数の地区では、地区の病院や個人病院、デイ・ケア・センターにも分け与えるのが習慣となっている。 大きな村では、個人の分け前の一部が食料品店に売られることもある。 小売り価格の上限は政府の法令で管理されており、牛肉や豚肉などに比べて約半額程度である。


保存と調理
ゴンドウ鯨の肉や脂肪は様々な方法で保存され、食べられる。 新鮮な肉は、ゆでられたり、脂肪とジャガイモを添えたステーキにされる。 肉と脂肪は冷凍庫に保存したり、伝統的な塩漬けにされて屋外で乾したりする。 脂肪は、乾した魚と一緒に食べられることもある。


ゴンドウ鯨
ゴンドウ鯨にはヒレナガゴンドウ(long-finned pilot whale)とコビレゴンドウ(short-finned pilot whale)がいる。 北西大西洋に見られるのはヒレナガゴンドウで、フェローの人々にはgrindahvalurという名称で知られている。 これらは南北両半球において、気温が穏やかで極に近い水域に広く分布している。 ヒレナガゴンドウは数頭から千頭以上までの群れをなして回遊する。 雄は体重が1.7トン程度で体長は5.5メートルほどであり、雌は体重が0.9トン程度で体長は4.3メートル程度である。


反ゴンドウ鯨漁キャンペーン
1984年以降、ゴンドウ鯨漁はヨーロッパや北米を中心とした多くの動物保護運動の対象となっている。 1992年には、これら団体のうち、EIA(Environmental Investigation Agency、環境調査エージェンシー)、WDCS(Whale and Dolphin Conservation Society)、WSPA(World Society for the Protection of Animals、世界動物保護協会)の3つがゴンドウ鯨漁反対キャンペーンを展開し、イギリスやドイツでフェロー諸島からの輸入品を扱う小売店にボイコットを呼びかけている。 今のところ、これらのボイコット運動の影響は無視できる規模である。 キャンペーンではゴンドウ鯨漁を、残酷なスポーツとか、世界最大の鯨の虐殺などと形容している。 ゴンドウ鯨漁協会への手紙で彼らは、漁におけるいかなる動物福祉的改善にも満足するつもりはなく、漁そのものをやめさせるのが目的だと確答している。


フェロー諸島
フェロー諸島は北大西洋の中部に位置し、スコットランドとアイスランドのほぼ中間にある。 18の島々から構成され、そのうち17の島々に合計4万3500人ほど住んでいる。 多くの人々が経済的困難から島を離れ、1990年以降人口は約3000人減少した。

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