誠実な人間は条約を尊重するものだ

(HNA(ハイ・ノース・アライアンス)発行 "The International Harpoon"(2000年7月)からの訳。 15-May-2002。
原題:"Honest people honour agreements")




「国際捕鯨取締条約(*1)は全体が捕鯨のためにある」とニュージーランド政府の IWCコミッショナーのイアン・ステュアート(Ian Stewart)は1993年5月18日づけのニューヨーク・タイムズ紙で不満を漏らした。 彼の言い分では、IWC加盟国の大半は商業捕鯨に反対であって、もはやこの条約の目的には同意していないのだと言う。

だが、条約への署名は自発的なものであり、同意しないのなら署名せずにIWCの外側にいればよいだけのことである。 アメリカは人権に関する国連の2つの条約の1つには署名していないし、西欧の多くの国は国連海洋法条約に署名していない。

もし、ある条約に署名した国がもはや条約に同意できなくなったなら、条約内容を変えるよう交渉すべきである。 そして、もし交渉に成功しなかったなら、脱退するか、我慢しながらとどまるかの選択に直面することになる。 間違ってもやっていけないのは、自分が署名した条約を故意に破ることである。

だが、この最後の行為こそが、IWCの多くの加盟国が行っていることなのである。

国際捕鯨取締条約の目的は、条文によれば「鯨の適当な保存を図って捕鯨産業の秩序のある発展を可能にする(条約前文)」である。 条約ではさらに、激減した種は保護の対象とされ、「鯨が繁殖すればこの天然資源をそこなわないで捕獲できる鯨の数を増加することができ(同上)」るとしている。 IWCが決定することは、「鯨資源の保存、開発及び 最適の利用を図る(第5条2項)」ためであり、「科学的認定に基いて(同上)」、「鯨の生産物の消費者及び捕鯨産業の利益を考慮に入れたものでなければならない(同上)」。 IWC加盟国には、上記のような条約の目的を遂げるために力を注ぐ義務がある。

IWCの事務局長であるレイ・ギャンベル(Ray Gambell)博士が1993年5月にEUサミットへの報告で述べた以下の陳述は、IWCの多くの加盟国が条約の目的に沿わない立場にあることを宣言したことを明らかにしている。

「オーストラリア、オランダ、ニュージーランド、イギリス、アメリカは資源の状態の健全性について確証が得られ、捕鯨の操業をきちんと監視・管理できる制度ができ、鯨の人道的捕殺が達成できるまで商業捕鯨を認めるべきでないと言う。 しかし、今年になって、これらの国の本音は、アメリカの声明にあるように、これらの条件が整っても絶対捕鯨の再開に反対するものであることが明らかになった。」

1991年、アメリカ政府の海産哺乳類委員会は、アメリカの捕鯨政策を再検討することを提案し、その中で、アメリカは商業捕鯨に全面的に反対するならIWCの場で条約を変更することを求めざるをえないとしている。 アメリカは未だにそうしていないし、上記の国々のいずれもIWCから脱退することを考えてもいない。

我々ハイ・ノース・アライアンスはオーストラリア政府にIWCを脱退するように求めたが、環境大臣ロバート・ヒル(Robert Hill)のスポークスマンは「IWCは進化しつつある組織であって、オーストラリア、ニュージーランド、その他の反捕鯨国はIWCを前進させているものと信じており、ノルウェーや日本は過去に基づいている・・・」と拒否してきた(Advertiser紙、2000年6月27日)。

IWCの場では、ノルウェーや日本は国際捕鯨取締条約に書かれているような、自然資源の持続的利用の原則に忠実である。 オーストラリアは彼らの文化基準で「特別な動物」と見なすものには「非利用」の原則に忠実な国である。 我々の立場は現代的で見識のあるものだが、オーストラリアが行っているような文化帝国主義はカビのはえた過去の考えである。

1994年のワシントン条約締約国会議でEU加盟国は、「科学的根拠や客観的データに基づいて自然資源を持続的に利用するという、広く受け入れられた原則への現実的な支持を広げるという合意に満足している」と宣言した。 1992年の国連環境開発会議の行動計画「アジェンダ21」では「参加国は、海洋生物資源の保護と、それらを人間の栄養的、社会的、経済的、開発的目標のために持続的に利用することに同意した」とある。

「IWCの歴史における最悪の問題は以下のようなことだ −  地球環境や資源に関する条約に署名した国が、条約機構がその条約の前提を無視したり機構内の科学的助言を無視する体制に陥っているのに気づいているのだろうか?」と環境法の専門家であるアメリカのクリストファー・ストーン(Christopher Stone)は問いかける。

誠実な人間は条約を尊重するものだ。 すべての国際協調は、条約が尊重されるかどうかにかかっている。




訳注1: 正式名称は「International Convention for the Regulation of Whaling」、略称ICRW。 条約前文にある「鯨族の適当な保存を図って捕鯨産業の秩序のある発展を可能にする条約を締結する」という目標のために、条約第3条の「締約政府は、各締約政府の1人の委員からなる国際捕鯨委員会(以下「委員会」という。)を設置することに同意する」に従ってIWCが創立された。

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