アイスランドはIWCへの条件付き加盟を断念すべきなのか?

(HNA(ハイ・ノース・アライアンス)発行 "The International Harpoon"(2001年7月)からの訳。 09-Feb-2002。
原題:"Must Iceland Give Up Whaling Option to Join IWC?")




アイスランドの希望は商業捕鯨モラトリアムに意義申し立てをした(つまり、モラトリアムの制約を受けない)状態でIWCに復帰することである。 アイスランドの考えでは、この異議申し立てをしないでIWCに入ったのでは、捕鯨する権利を犠牲にすることになる。 そこで手続き上の問題となるのは、IWCがアイスランドの異議申し立て付き加盟を投票にかけるべきか、個々の加盟国に個別判断をまかせるか、である。 いずれにしろ、重要なのはアイスランドの加盟申請がIWCの法的基盤である国際捕鯨取締条約の目的に合致するか、と言う点にある。


イギリスの拒絶

イギリスの意思はすでに固まっている。 「アイスランドを加盟させることはない」とイギリス政府のIWCコミッショナーのリチャード・コーアン(Richard Cowan)は我々に語った。 彼は、アイスランドの「異議申し立て付き加盟」が投票にかけられ、拒否されることを望んでいる。

これとは対照的にノルウェーはアイスランドの意義申し立て付き加盟に何の問題もない。 外務省資源局のトゥーリド・エウセビオ(Turid Eusebio)の見解では、異議申し立ては「持続的な捕鯨の促進を図る」というIWCの目的に照らし合わせて妥当であるという。 本来一時的なはずが、鯨資源の保全以外の理由のために永久に商業捕鯨を止める道具に使われているモラトリアムは、「条約の文面だけでなく、その精神に反している」と彼女は説明する。

こういう場合に適切な法的根拠となるのがウィーン条約法条約(*1)であるのは広く認められたことである。 ウィーン条約法条約に従うと、アイスランドが異議申し立て付きで再加盟するのは、なんら国際法的に問題がない。 このような異議申し立て付き加盟は、条約で明確に禁じられていなく、またそれが条約の「目的に矛盾していない」限り認められる、とウィーン条約法条約にある。

しかし、アイスランドの場合、もうひとつの条項が考慮の対象になり、それが、イギリスが投票を求める根拠となっている。 ウィーン条約法条約は「条約が国際機関の設立文書である場合には、留保については、条約に別段の定めがない限り、当該国際機関の権限のある内部機関による受諾を要する。」(第20条3項)とあり、この場合IWCが「当該国際機関」として受諾を行なうことになる。


IWCの法的基盤とはいえない

アイスランドが異議申し立ての対象としているモラトリアムは当初の国際捕鯨取締条約の一部ではなく、その「附表」に含まれており、附表はIWCが捕鯨の管理に関する決定を反映させるために改訂を重ねていくものである。 だが、国際捕鯨取締条約の条文では附表は条約の一部であると規定されている。

アイスランド政府当局筋はIWCの本会議でこの問題が取り上げられるまで、自身の法的主張を明らかにしないことにした。 だが、附表について言えば、確かに条約に「含まれて」いるものの、条約起草時にIWCの目的や権限意思決定過程の基準やルールを決めた際には明らかに存在していなかったことは、アイスランドが論拠にしうる。 加盟国の全会一致でしか変更できない、比較的変更しづらい国際捕鯨取締条約と、本会議で4分の3の多数決で変更できる附表では違いがある。 附表はIWCの活動の産物であるのだから、IWCの存在そのものの法的基盤とはいえない。

こういう考えがIWC加盟国に広く認識されているなら、IWCがアイスランドの異議申し立てを受け入れるかどうかを決める必要はない。 無論、個々の加盟国が反対するのは勝手である。 もし、ある加盟国がアイスランドに反対するなら、アイスランドの異議申し立てはこの加盟国との2国間関係においてのみ無効となる。


適切な基準

では、アイスランドの異議申し立ての適法性は、どのような根拠から判断されるべきなのだろうか?

「異議申し立てつき加盟の適法性を決めるための適切な基準は、それが条約の目的に矛盾しないかどうかだ」と海洋に関する国際法の権威であるワシントン大学のウィリアム・バーク(William T. Burke)名誉教授は言う。 そして、彼の見解では、それは矛盾していないという。 彼は、『持続的捕鯨の体制をめざして(Towards a Sustainable Whaling Regime)』(University of Washington Press、2001)という本の中で、IWCがその条約もろとも衝突コースに向かっていると論じた国際法や国際関係の専門家の一人である。 バークは彼の執筆箇所において、IWC自身には「自分の基本理念を変える権限がない」と強調する。 だが、彼の判断では、IWCはまさにこの「権限がない」ことをやってしまった。 IWCは現在「国際捕鯨取締条約の根本理念である持続的な捕鯨というものに反対する勢力」にコントロールされ、「条約の権限と目的に沿った資源保全には興味がない」のである。

この本の編集者で、最近逝去するまで南カリフォルニア大で国際関係を教えていたロバート・フリードハイム(Robert Friedheim)教授は「捕鯨産業の秩序のある発展という、条約に明文化されている目的は、明らかにIWCの意思決定では除外されている」と主張する。 もう一人の執筆者であるオレゴン大学法学部のジョン・ジェイコブソン(Jon L. Jacobson)名誉教授も、国際捕鯨取締条約の目的に反するIWCの決定は「越権行為であり、法的には全く効力がない」と結論づける。 一例として彼は南氷洋における鯨類サンクチュアリーと「商業捕鯨モラトリアムの恒久化」の目論見を挙げる。

「条約の極めて明確な主目標は鯨を保護しながら捕鯨産業とその消費者の利益を図ることである」とジェイコブソンは強調する(鯨愛好者がこれらの著名な執筆者に対して「捕鯨産業の差し金」と罵倒するまでは、ジェイコブソンは「鯨が人間に殺されない世界を望む」と言っていたことは注意して欲しい。 だが、このために「法の支配」というものは犠牲にはできない。 「鯨を救うのはりっぱな目的だが、この目的のために法をゆがめる人間は、私に言わせれば、自分自身の特殊な大義のために地球村を破壊しようとしている人間と同類だ」と言う。) アイスランドは、「附表と条約本体の間に矛盾があり、矛盾するものを両方受け容れることはできないから、条約の目的に合致しない決定の産物である附表のモラトリアムには意義申し立てをして条約に署名する」と主張することも可能である。


事実上は永久的

イギリスは、アメリカ、ニュージーランド、オーストラリアと同様に、商業捕鯨モラトリアムを解除する気がないと宣言している。 これらの国が今と同様にIWCにおける投票に影響力を持ちつづけるなら、モラトリアムは永続するであろう。 だから、アイスランドに意義申し立てを引っ込めるように要求することによってイギリスは、たとえ豊富な鯨種でさえ、そして公海ではなく自国沿岸においても、アイスランドが捕鯨をする権利を永久に奪おうとしていることになる。

だがバークの『持続的捕鯨の体制をめざして』における議論によれば、捕鯨する権利は国際捕鯨取締条約だけでなく、国連海洋法条約でも認められているのである。




訳注1: 正式名称は「Vienna Convention on the Law of Treaties」(略称VCLT)。 「条約法に関するウィーン条約」とも約される。 簡単に言うと、国際条約はどうあるべきかを規定した条約である。

条約内容の一部に留保を表明して署名することに関して第19条では

第19条 留保の表明
 いずれの国も、次の場合を除くほか、条約への署名、条約の批准、受諾若しくは承認又は条約への加入に際し、留保を付することができる。

 (a) 条約が当該留保を付することを禁止している場合

 (b) 条約が、当該留保を含まない特定の留保のみを付することができる旨を定めている場合  (c) (a)及び(b)の場合以外の場合において、当該留保が条約の趣旨及び目的と両立しないものであるとき。

とある。

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