イタリアは戦士に加わる

(HNA(ハイ・ノース・アライアンス)発行 "The International Harpoon"(1998年5月)からの訳。 19-Jan-2002。
原題:"Swelling the Warrior Ranks")




「1997年11月、イタリアは1946年起草の国際捕鯨取締条約に同意した(*1)」とイタリア代表は加盟後初のIWCでの開会声明で述べた。 そしてIWCで議論されていた諸提案については「今現在の諸問題について、広く受け入れられる解決をめざして最善を尽くす」とも述べた。

だが、イタリアの建て前の意図が実際にはどのようなものであるのか判明するのに、さほどの時間は要しなかった。 加盟後最初のIWC会議において、「商業捕鯨には反対であり、原住民生存捕鯨だけは受け入れられる」と高らかに言明し、イタリアは強硬な反捕鯨路線の国々の一つであることが明らかになった。

捕鯨を管理するための国際捕鯨取締条約に署名したことを指摘されると、イタリアは自身の目的が「条約の正しい解釈を強化することにある」と述べた。 イタリアは本会議の場で、国際捕鯨取締条約は古いから、それにこだわる必要はなく、むしろ条約起草の1946年以降の進展を考慮に入れて解釈すべきであると説明したのだが、これは冒頭で紹介した「国際捕鯨取締条約に同意した」との開会声明に矛盾する。

だが、最初から守るつもりのない国際捕鯨取締条約に署名してIWCに加盟する国はこれが最初ではない。 内陸国であるオーストリアは1994年に加盟し、オーストリア政府の環境大臣ラウシュ・カラッツ(Rauch Kalats)は、加盟の意図は捕鯨の捕獲枠をゼロにし、IWCを鯨の保護の管理組織に変えることだと述べた。

鯨を深く愛するあまり、鯨を殺すことの管理に参加したくはない国の選択肢は、IWCに加盟しないか、IWCの外側で反捕鯨のための新しい条約を制定することである。 いずれの場合も、その国はIWCの外にいるべきなのである。

スイスはかつて、まさにこの理由のためにIWCを去ることを検討した。 捕鯨の管理に参加するよりは鯨が殺されないことを望んでいたが、いったん条約に署名した国はそれを尊重する義務があることを認識していたからだ。

イタリアは、加盟後最初のIWC会議において、国連海洋法条約(UNCLOS)と、その第65条(*2)にある魚類と鯨類の区別に注意を向けた。 イタリアの主張によると、この条項を守る限り、IWCは商業捕鯨の禁止を続けるべきなのだという。

国連海洋法条約の一般原則の一つは海洋資源の最大限の持続的活用である。 しかしながら海生哺乳類について第65条は、他の場合よりも一般に厳しく管理しうると述べている。 これは「最大限の持続的活用」の原則からの除外であるが、現実には、文化的な理由で海生哺乳類を捕獲したくなければしなくても良い、という程度のことである。 また、この条文は国連海洋法条約のもとで海生哺乳類の捕獲を管理する権利には全く影響しないし、IWCが国際捕鯨取締条約の目的である捕鯨の管理をすることを禁ずるものでもない。


驚きではない

我々は、イタリアが国際捕鯨取締条約を尊重することへの希望をわずかながら持っていたし、開会声明を聞いた際には多少安堵もした。 だが希望を裏切られた時には、驚きはしなかった。

イタリアは1994年からオブザーバーとして3回IWCに顔を出しており、そのうち2度は反捕鯨団体のIFAW(国際動物福祉基金)の科学者シドニー・ホルト(Sidney Holt)をオブザーバー・メンバーや通訳として送った。 捕鯨産業破壊者としてのホルトの長くて卓越した過去を思えば、イタリアのIWC加盟決定に彼が無影響であったと信じられるだろうか?

だから今回、イタリアが反捕鯨の3つの決議案の共同提案国に名を連ねたのは驚きではないのだ。

これらの決議案は、IWCが戦場になってしまっており、イタリアの開会声明に見られた協調の精神や楽観性は言葉だけのものであることを思い起こさせる。 カナダ、日本、ノルウェーに向けられた敵意は、捕鯨国が国際捕鯨取締条約の精神に忠実であろうとする事を犯罪視する反捕鯨国の非難によって再び大きく表面化するだろう。

ローマの戦士は戦争の準備に入ったというわけである。




訳注1: 実質的には、国際捕鯨取締条約を実施する組織であるIWC(国際捕鯨委員会)に加盟するとこと同義である。 なお、マスコミも含めて一般にあまり理解されていないことだが、国際捕鯨取締条約というのは、捕鯨の存在を前提に、いかに鯨資源を損なわないように捕鯨管理を行うかを実現するためのものであり、倫理的ないしは文化的動機から捕鯨を禁止することは条約の権限外である。 したがって、そのような意図を持つ国がIWCに加盟していること自体が矛盾であり、国際法的に欺瞞である。

訳注2: 国連海洋法条約(UNCLOS)の第65条は以下のとおりである(原文と訳文)

Article65
Marine mammals
Nothing in this Part restricts the right of a coastal State or the competence of an international organization, as appropriate, to prohibit, limit or regulate the exploitation of marine mammals more strictly than provided for in this Part. States shall cooperate with a view to the conservation of marine mammals and in the case of cetaceans shall in particular work through the appropriate international organizations for their conservation, management and study.

第65条  海産哺乳動物
この部のいかなる規定も、沿岸国又は適当な場合には国際機関が海産哺乳動物の開発についてこの部に定めるよりも厳しく禁止し、制限し又は規制する権利又は権限を制限するものではない。 いずれの国も、海産哺乳動物の保存のために協力するものとし、特に、鯨類については、その保存、管理及び研究のために適当な国際機関を通じて活動する。

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