(HNA(ハイ・ノース・アライアンス)発行 "The International Harpoon"(2000年7月)からの訳。03-Feb-2001。
この行き詰まりは誰のせいだろうか?
ベテランのニュージーランド政府代表マイク・ドナヒュー(Mike Donoghue)に言わせると、それは捕鯨者ということになる。
捕鯨国がこれらの問題での進展を故意に遅らせている、と彼はオーストラリアのABCのラジオ(6月19日)に語った。
グリーンピースも同意見である。
日本とノルウェーは鯨に関する国際会議をないがしろにするつもりである、と最近のプレス・リリース中で発表した。
グリーンピースによれば、捕鯨国は自身の強硬路線を変えず、アイルランドの妥協案を受け入れることを拒絶しているのだという。
しかし、40カ国から成る組織の決定を阻止するために、これらの2つの国が影響力を持っているなどと、誰が真面目に信じるだろう?
IWCの条約の付表の変更を拒否するには、加盟国の投票の4分の1が必要である。
確かに捕鯨国は、1握りの島国(反捕鯨陣営は、それらは日本によって買収されたと主張する)の支援を得ているが、しかし、これさえ南氷洋のサンクチュアリー(Southern Ocean Sanctuary)の採用を阻止するには、捕鯨の将来に深刻に関係するにもかかわらず、十分ではなかった。
実際、ノルウェーは、サンクチュアリーの投票においては、(部分的には抗議の意思表示を込めながらも)反対票を投じても結果は同じだという判断から棄権したのである。
あの重大な出来事以後、反捕鯨国の数はイタリアの加盟で増えた一方、捕鯨を支持する国の数には変化がなかった。
ゆえに常識からいって、事態の行き詰まりの責任は大多数を占める反捕鯨国にある。
彼らがそれを認めるのを渋る理由は、彼ら自身の内部に不和があるからである。
動物保護団体との親密な関係で知られるイギリスの雑誌 BBCワイルドライフ誌の1994年6月号で、デイビッド・ヘルトン(David Helton)は、反捕鯨陣営内部に深刻なミゾが生じている事は間違いないと報じた。
雑誌の編集者が苦慮して説明しているところによると、分裂は(捕鯨を終わらせるという)目的に関してではない。
記事で言及されたいかなるグループのメンバーも、それらのリーダー達が捕鯨の終わりを心から支持しており、目標達成の最良のチャンスをもたらすと考える路線を正直に行っているということを確信すべきである、と彼女は書いている。
この分裂は、反捕鯨純粋派と反捕鯨現実派の戦略の違いにある。
ヘルトンの説明によると、Aグループにとっては、捕鯨管理のためのいかなる規則も、捕鯨再開に道を開きかねないために、呪われた存在であるという。
一方、Bグループにとってそれは、(捕鯨が再開可能であるかのような体制にしながら)実際には捕鯨を再開をできないようにするための最後のチャンスなのだという。
純粋主義者であるAグループはオーストラリアとニュージーランドが主導し、イギリス、オーストリア、イタリアが支持する(後者2国は「捕鯨再開をくいとめるために」とIWCに加盟した)。
Aグループ路線を支持する代表的なNGOはEIA(Environmental Investigation Agency)と WDCS(Whale and Dolphin Conservation Society)である。
現実主義者であるBグループは、妥協案を提案したアイルランドに率いられるEU諸国から成る。
NGOにおける支持者にはIFAW(International Fund for Animal Welfare − 国際動物福祉基金) とWWF(World Wide Fund for Nature − 世界自然保護基金)が含まれる(しばらくの間、グリーンピースがこのグループに属するように見えたこともあったが、今では最良の利益を模索して、両グループを神経質に行き来しているようである)。
ヘルトンは記事の中で、IFAWのシドニー・ホルト(Sidney Holt)にBグループの戦術について一層詳細に説明させている。 曰く、「インド洋と南氷洋のサンクチュアリーという地理的制約に、RMP(改訂管理方式)の持つ安全措置、鯨の人道的捕殺の主張を組み合わせれば、捕鯨者が50年以上、おそらくは永久的に達成出来ない資格基準を導入できる」。
言いかえれば、Bグループの戦術は捕鯨を合法ではあるが実質不可能にすることで、純粋主義者のそれよりスマートなアプローチといえる。
Bグループの戦術がうまくいった場合を想像してみよう。
ノルウェーと日本は、10年もの間、RMS(Revised Management Scheme − 改訂管理制度)の完成を要求してきた。
もし反捕鯨派が今その採用を認めるならば、その厳格な必要条件に対する捕鯨者のいかなる抗議も、自分の国以外では同情を得ないであろうし、なぜRMSのもとで捕鯨を行うのが実質不可能であるのかを一般大衆に説明するのは困難を極めるであろう。
それはまた、捕鯨国がIWCから脱退する事態 − これは捕鯨をすべて禁止するという純粋主義者の目論みが成功すれば避けられないシナリオであるが − を非常に困難にする。
捕鯨の監視と管理についての作業部会のオランダ人議長は、捕鯨国に幾層もの管理を課する、一連の提案を示した。
それらによると、24時間の検査を可能にするためにすべての捕鯨船の上に少なくとも2人の自国民の検査官を同乗させねばならない。
これに加えて、IWCは国際監視員を船上に置くことができる。
そのような体制の下では、やや奇妙な状況が、季節的な捕鯨に従事する小さなノルウェーの漁船の上で生じるかもしれない(訳注: ノルウェーの沿岸捕鯨では季節に応じて、鯨を捕ったり魚を捕ったりする)。
つまり、6人の乗組員がいる典型的な捕鯨ボートが少なくとも3人の検査官によってコントロールされるかもしれないというわけである!
提案はまた、自国民の検査官(おそらく国際監視員も)を陸上の捕鯨基地に配置する事を要求する。
コントロール・センターはIWCの本部に設けられ、衛星発信機がすべてのボートの位置のリアルタイム・モニタリングを可能にするであろう。
すべてのこのコストは当然の事として捕鯨国がまかなわねばならず、ノルウェーの捕鯨者が日本への輸出によってこのコストをまかなう事を考えても無駄である。
アイルランドの提案は鯨製品の輸出をも禁止するであろうから。
IFAWのホルトが6年前に述べたように、これらは確かに50年間、そして恐らく永久に、捕鯨者が満たす事のできない要件である。
反捕鯨現実派の計画は、鯨の擁護者として見られたいというオーストラリアおよびニュージーランドの熱望がなければ、今日実現していたかもしれない。
だが、純粋派が実際に救っているのは、うまく出し抜かれかかった捕鯨国なのである。
捕鯨国および反捕鯨純粋派は、捕鯨を合法だが実質不可能にするRMS(改訂管理制度)を拒絶するために、IWC内で十分な投票数を持っているというわけである。
しかし、RMSを棚上げしたなどと捕鯨者を非難することは不合理である。
もし純粋主義者が現実主義者と運命を共にすれば、RMSは明日にでも完成することができるであろう。
何が私達にとって明白なのか理解しようともしないマイク・ドナヒューやグリーンピース及びその他のために、以下に要約しよう。
IWCの機能を停止させているのは捕鯨国ではなく、個々の利己的な理由のために捕鯨産業を破壊する最良の方法で意見が一致できないでいる、大多数を占める反捕鯨派なのである。
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原題:"Blaming the chain gang for dragging their feet")
IWCの年次会議は90年代に入って以前より短くなった。
商業捕鯨のための管理制度がない中、その欠落部分である「監視と管理」について議論する作業部会へ参加する事は、近年にはきわめて困惑するような事になってきている。
昨年は誰も発言を求めず、議長は、昼食の合図のベルで解放されるまで会議を伸ばそうと必死であった。
今年は皆、建設的であるという印象を与えようとやっきになっていたが、実質的な結果は何も出なかった。