イギリスは目視調査を妨害する

(HNA(ハイ・ノース・アライアンス)発行 "The International Harpoon"(2001年7月)からの訳。 12-Jan-2002。
原題:"UK Sabotages Counting Survey")




イギリスが商業捕鯨モラトリアムを支持した主な理由の一つが、鯨の資源状態に対する知識の不十分さにあった。 しかし今、イギリスは北東大西洋のミンククジラの推定資源量を更新する作業を意図的に妨害している。

イギリスはこれまで、自国の経済水域におけるミンククジラの目視調査をノルウェーの調査船に認めてきた。 だが今年の6月27日、調査船が出航するその日に許可を撤回してきた。 調査は8月7日まで行なわれる予定である。

さらに7月には、イギリスの水域で鯨の目視調査をするはずだったフェロー諸島の調査船も拒否され、デンマーク政府は抗議した。

デンマーク政府のIWCコミッショナーで、IWCの副議長でもあるヘンリク・フィッシャー(Henrik Fischer)は国内紙のRitzauに、このニュースは幾分驚きをもって受け止められていると語った。


「必要性はある」

イギリス政府のIWCコミッショナーであるリチャード・コーアン(Richard Cowan)は、調査船への許可を取り消した後、「そもそも最初から許可など与えるべきではなかったのだ」と我々に語った。

イギリスは目視調査の価値を認めないのかと聞かれると、「調査の必要性は否定しない」と彼は答えた。 また、モラトリアムに法的に異議申し立てをしているノルウェーが、自身で捕獲枠を設定する権限がある事は認めた。

彼によると、協力を取りやめる決定は、ノルウェーがミンククジラの製品の輸出を再開すると決定した事への対抗として、漁業相のモーリーが決めたという。

ノルウェーの海洋調査局の調査部長アスムンド・ビョーダル(Asmund Bjordal)は「イギリスの180度転換は、驚くべきことであり、非常に残念だ」と語り、イギリスとノルウェーは過去100年以上、海洋調査で親密に協力してきたことを指摘した。 「だから、イギリスが共有の海洋生態系や海洋資源に対するノルウェーの調査を妨げるのは狭量だと思う」と彼は言う。

ノルウェー外務省のスポークスマンであるカーステイン・クレプスヴィク(Karstein Klepsvik)も「科学的な最良の推定頭数を得る事は多くの人の利にかなうことだ」と7月6日に国内紙のFiskeribladetで語り、遺憾の意を表明した。


「捕獲量を増やす」

だがモーリーは強硬にも、ノルウェーを非難しようとした。

彼は、「イギリスは、国際法を無視しようとする(*1)ノルウェーの試みを遺憾に思う」と6月30日付けのガーディアン紙に語り、ノルウェーが調査結果をもとに、もっと多くのミンククジラがいると主張して捕獲量を増やすかもしれないと言う。 目視調査は、鯨保護の観点にとっては重要でないともモーリーは言う。

北東大西洋のミンククジラの推定頭数は、1994年にIWCの本会議で採用された改定管理方式(RMP)に用いるため、IWCの科学委員会によって評価され認められることになっている。 イギリスはRMPの採用にあたって賛成票を投じた国の一つである。 そしてRMPでは、鯨の頭数の変化をモニターできるように、最低でも5年に一回は目視調査を行なうことが求められているのである。


どの条文?

イギリスのIWCコミッショナーが、ノルウェーには自分で捕獲枠を決める権限があると認識していると聞いて、我々ハイ・ノース・アライアンスの会長のジャン・オディン・オラブセン(Jan Odin Olavsen)は、コーアンの上司であるモーリーがノルウェーが「国際法を無視」しようとしていると言った時、何を意味したのかといぶかった。

「モーリーには、ノルウェーが犯していると彼が主張する国際法の条文を見せて欲しいものだ」と彼は言う。

モーリーはまた、「今日の捕鯨は世界の世論から受け入れられていない」と述べて、科学への妨害を正当化しようとする。

「イギリスの捕鯨政策が科学を無視して、世論だけに依存したものであるのは明白だ」とオラブセンは言う。 「だから、イギリスからは、捕鯨の管理基盤としての科学についてこれ以上聞くことは何もない。 だが、彼らの言う、イギリスの意見が共有する「世界の世論」とやらが何を根拠にしたものなのかは興味深い。」




訳注 *1: ノルウェーも日本も、豊富なミンククジラを「絶滅に瀕した種」に分類しているワシントン条約の分類に対しては条約にのっとって法的に留保しており、両国間でミンククジラの取引を再開するのはいかなる国際条約にも反しない。 国際条約に対する一般大衆の無知につけ込んでこのように言うのは、モーリーに限らず反捕鯨勢力の常套手段で、過去現在の報道を見れば例には枚挙のいとまがない。

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