IWC - 抜け穴だらけの組織

野生生物の持続的利用を支持するNGO「国際野生生物管理連盟(IWMC)」の2004年IWC総会におけるオープニング・ステートメント
原題:"The IWC: a System of Loopholes")




我々国際野生生物管理連盟はイタリア政府に対し、ソレントにおいてIWCの第56回年次会議を主催されたことに心から感謝いたします。 我々は、IWCが鯨の保存と捕鯨産業の秩序ある発展において信頼性と実効性を回復することを望んでいます。

過去20年の間、「抜け穴(loophole)」という言葉が鯨資源の持続的な利用の反対者達によって使われてきました(訳注: 例えば, 日本の調査捕鯨は条約の抜け穴を利用したものだというのが反捕鯨勢力の言い分だった)。 この「抜け穴」という言葉の完全な定義は Collaborative International Dictionary of English によると以下のとおりです。

抜け穴: 法律・規則・契約における曖昧さや、意図しなかった手抜かりで、条文の文面の意図を回避し、一定の状況のもとで義務を逃れたりさせるもの。 否定的な意味で用いられるが、「免責条項」とは異なる。 「免責条項」は通常、あらかじめ規定され予見可能な状況のもとで義務を免れることを意図的に認めるために条文に含まれている。

これによると「抜け穴」と「免責条項」は明確に区別されています。 一般的な感覚では、「抜け穴」とは法律の文面にない行動や、法律の文面が曖昧なために適切に対処できない行動と解釈すべきでしょう。 科学的な調査捕鯨は国際捕鯨取締条約の条項においてで明確に規定され認められています。 モラトリアムへの異議申し立て手続きに基づく商業捕鯨も、最悪の場合でも条約の免責条項を活用したものに分類できます。 両者とも正確に言えば、条約の「抜け穴」を利用した行動には分類できないのです。

しかしながら、IWCの加盟国が「抜け穴」を利用する分野もいくつかあります。 IWCの会議の場で起こり、条約の付表に形を変えている内容は、大体は国際捕鯨取締条約の「抜け穴」を活用した結果です。 不幸なことに、今現在のIWCの捕鯨に対するアプローチを決めているのは条約の内容ではなく、これらの「抜け穴」です。 これらの「抜け穴」をふさぐことなしには、IWCが適法な国際機関として機能することはできないでしょう。


「抜け穴」その1 − IWCでは条約で意図した内容と逆のことができる

1946年、捕鯨産業の「秩序ある発展」のための国際条約を草案した人々は、加盟国が条約の目的に沿ってのみ行動すると期待したでしょう。 1980年代には、この条約上の目的に賛成しない国々が大挙してIWCに加盟し、それを効果的にひっくり返しました。 条約の条文そのものは変えられないものの、その実施のための詳細な取り決めを含んだ付表は変更可能であり、条約の一部を構成すると見なされています。 この付表の修正に関して何の制限も無いため、IWCが初期の目的に逆行することを可能にする「抜け穴」となっています。


「抜け穴」その2 − 条約に反する内容の付表修正が可能である

条約の第5条では付表の修正は「鯨資源の保存と利用」に関したものでなければなりません。 この定義によれば、鯨資源の捕獲枠ゼロの継続のような、鯨資源の利用と無縁な修正はできないはずです。 条約第5条によればまた、付表の修正は「条約の目的を遂行するため並びに鯨資源の保存、開発及び最適の利用を図るために必要なもの」であるべきということになります。 モラトリアムの投票では、単に規定された4分の3の多数決だけでもって、この条項を無視した形で採択され、条約では予見されなかった「抜け穴」となりました(付表の修正は「科学的認定に基づき」、「鯨の生産物の消費者及び捕鯨産業の利益を考慮に入れたものでなければならない」という条文も同様に無視されました)。 同じ「抜け穴」はサンクチュアリーの採択においても活用されました。


「抜け穴」その3 − 単純多数決だけでほとんどすべての意思決定ができる

IWCでは付表の修正以外の意思決定は単純多数決によっている。 この「抜け穴」のため、「原住民生存捕鯨」以外の捕鯨を非難したり、鯨の捕獲に逆行するような保存委員会の設置が、投票において半数をちょっと上回った程度で可能になります。 つまり、半数以上の票を獲得できればほとんど何でもできるということです。


「抜け穴」その4 − 1990までに鯨資源の評価を終えることなく、モラトリアムが今だに継続中

1980年代半ばに設定された商業捕鯨のゼロ捕獲枠(いわゆるモラトリアム)は科学的レビューにかけられるはずであり、IWCはモラトリアムが鯨資源に与えた影響を「包括的に評価」して新しい捕獲枠を考慮することを「遅くとも1990年までに」行う義務がありました。 しかし、モラトリアムが鯨資源に与えた影響の包括的評価を決してしないという「抜け穴」によってモラトリアムは続いています。 2004年現在の付表が、「遅くとも1990年までに」着手すべきだった要件を今だに含んでいる事態もまた、もちろん道理に反しています。


「抜け穴」その5 − 捕鯨に対して何ら商業的関心のない国が加盟している

国際捕鯨取締条約は「締約政府の管轄下にある母船、鯨体処理場及び捕鯨船」に適用されます。 ここで明確に意図されているのは、捕鯨母船、鯨体処理場、捕鯨船を持たない国は加盟国として想定されていないということです。 しかし「抜け穴」のために捕鯨に商業的関心が無い国が加盟することを可能にしています。 これを「抜け穴」1および2と組み合わせることにより、これらの国々がIWCの目的を効果的にひっくり返すことを可能にしてきました。


「抜け穴」その6 − 条約では民族差別が禁じられていない

条約の草案者は、条約の付表が一部の民族に好都合に小細工され、他の民族に対して差別的になるような事態は予想していませんでした。 IWCが定義したことのない「生存捕鯨」というカテゴリーは、特別な捕鯨の権利を一部の民族に与える一方で他の民族には与えないことの手段となっています。 アメリカにおける国内法ではアメリカ文化固有の理由で、アメリカ大陸の原住民に補償をしています。 しかし、この国内的特徴は、アメリカの先住民と同様に捕鯨の伝統を持つ他の国の人々を差別するようなやり方でIWCに持ち込まれました。 これは、そのような偏見が1946年制定の国際捕鯨取締条約では禁止されていないという「抜け穴」を利用したものです。


「抜け穴」その7 − 捕鯨国の間に差別を設けることによって、IWCでは豊富な鯨種よりも多い捕獲枠を絶滅に瀕した鯨種に与えている

IWCの「生存捕鯨」において、絶滅に瀕したホッキョククジラを含む鯨種について一部の民族に認めた捕獲枠は、改定管理方式(RMP)が算定する数字よりも多いですが、これも当初の条約においては想定されていなかった「抜け穴」です。


「抜け穴」その8 − NGOが会議に参加して討議結果に影響を与えることができる

NGOは条約やその付表では考慮されていない存在です。 彼らの活動に制限が加えられていないという事実(たぶんこれはNGOというものが1980年代までは社会政治学的な存在ではなかったためでしょうが)により、NGOは1980年代には分担金を与えて新しい加盟国に加盟させてモラトリアムに賛成票を投じさせたり、いくつかの反捕鯨国の代表と親密かつ公然と協力したりしてIWCの方向を左右させています。


「抜け穴」その9 - IWCはその付託事項を超えた問題を扱っている

IWCはイルカなどの小型鯨類には何の権限もないのですが、これらの種を扱う作業部会を設置するのは禁じられていないという「抜け穴」を使っています。


皮肉なことに、長年にわたるこれらの抜け穴を露骨に活用にもかかわらず、これらを行使してきた国々は条約を我慢してきました。 条約第8条は日本やアイスランドが行っている調査捕鯨は実施してよいと述べるだけでなく、加盟国は鯨の生物学的データを得るために「実行可能なすべての措置」とるべきであるとしています。 条約の条文で調査捕鯨の権利は保証されているので、数々の抜け穴が可能にしたIWCの目的の転覆からは守られています。

定義に従えば、「捕鯨産業の秩序ある発展」をもたらすために設立された条約においては、「捕鯨を可能にする抜け穴がある」という事態はありえません。 ありうるのは「捕鯨を妨げる抜け穴」だけであり、これこそが過去20年の間利用されてきたものに他ならないのです。 IWCはこれらの抜け穴が取り除かれるまでは機能不全のままでいることでしょう。

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