政治的な科学論文

野生生物の持続的利用を支持するNGO「国際野生生物管理連盟(IWMC)」の2005年IWC総会に関するニュース・レターから
原題:"Political Science")




IWCの科学委員会の機密保持規定が日本の新しい調査捕鯨を批判するイギリスのNature誌の最新号に記事を書いた4名のメンバーによって公然と破られた。 日本の南極海における次期調査計画の詳細は6月20日のIWC本会議まで機密扱いとなっている。

過去にも機密情報がマスコミにリークされた例はあるが、委員会の規則がこれほど露骨に破られたのは初めてである。 科学委員会への4名の「招待参加者」であるニコラス・ゲイルズ(Nicholas Gales)、粕谷俊雄(Toshio Kasuya)、フィリップ・クラップマン(Phillip Clapham)、ロバート・ブラウネル・ジュニア(Robert Brownell Jr.)らはすべて捕鯨に対する積極的な反対者であり、IWCのルールのE.5.(b)に違反したことで非難に値する。

日本の当局者はNature誌がIWCの規則違反に共謀したことに批判的である。 何人かはNature誌が政治的に偏ってしまい、日本の調査捕鯨に関しては批判的な記事しか掲載しなくなるだろうと考えている(訳注1)。 今回の論文は科学的な誠実さという基本的な要件を満たさないにもかかわらず掲載が許可されてしまった。

「日本の調査捕鯨計画が審査されている("Japan's whaling plan under scrutiny")」と題され、6月16日付けのNature誌に掲載された論文は省略の多さで注目に値する。 この論文では日本の調査捕鯨計画がIWCの科学委員会に事前に提出されていること、日本が科学委員会の助言を調査計画に反映させていること、そして調査結果が科学委員会の多くのメンバーに評価されていることを無視している。 それどころか著者らは、日本が無意味な調査を行い非科学的な目的のために一方的に捕獲数を設定しているとほのめかしている。 論文では鯨の致死的調査の科学的利点を歪曲し、鯨の非捕殺調査の関連項目には完全に目をつぶっている。 日本の南極海での調査捕鯨でこれまで150以上の論文が提出されたきたにもかかわらず、論文では「ほとんど科学的な論文が出されていない」としている。 更に著者らは、日本の調査捕鯨結果について議論する特別会合への参加すらボイコットしている。

皮肉なことに、著者らは2名が動物権団体の国際動物福祉基金(IFAW)と密接な協力関係にありながら、科学者にとって反捕鯨とか親捕鯨のレッテルを貼られるのは「悲劇」であると述べている。 その上で彼らは鯨類サンクチュアリーの役割と基本について誤った説明をした上で、調査捕鯨を行う権利を攻撃している。

国際野生生物管理連盟の会長であるユージン・ラポアン(Eugene Lapointe)は言う、「この論文はまじめな科学というよりは政治的主張のためのものである。 不幸なことに著者らはIWC科学委員会のメンバーとしての特権的立場を日本の調査計画を攻撃するために乱用した。 これはIWC科学委員会を政治化し、その独立性を危うくするだろう。」


訳注1: 反捕鯨国における類似の傾向として、調査捕鯨で得られた成果に関する日本の科学者の論文が、雑誌名は伏せられているもののイギリスの科学雑誌に「調査捕鯨は動物倫理に反する」という理由で掲載を拒否された例があることを指摘しておく。(「鯨の捕獲調査は非人道的行為か?」 石川創、鯨研通信第420号、2003年12月)

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