(日本鯨類研究所 1997年 12月発行「鯨研通信」第 396号より)
日本鯨類研究所
総合してみると、JARPA調査に対する日本の真剣な取り組みが着実に成果をあげていることが評価され、また、科学者がJARPA調査に対して詳細な改善点を積極的に指摘するなど、科学的有効性や鯨類資源の管理の改善に貢献する可能性に対しても期待されていることが明らかとなった。
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日本国政府が計画し、当研究所が政府の補助を受けて実施している南極海鯨類捕獲調査(JARPA調査)は、1987年に調査を開始してから10年(2年の予備調査を含む)を迎え、現在11回目の調査を実施中である。
この捕獲調査は、捕鯨史上前例のないランダムサンプリングの適用によってミンククジラの採集と分析を行って、これまでに多くの質の高い科学的知見と解析結果を蓄積している。
本年5月に東京でJARPA調査について過去の結果を総合的に検討する会合「JARPAレビュー会合」が、国際捕鯨委員会(IWC)の作業部会として開催されて高い評価を受けたが、IWC科学委員会(SC)の会合までその内容が秘扱いとされていた。
今秋(10月)に開催されたIWC/SC会合において、レビュー会合の結果が報告され、このほど内容が公開されたので、その結果の概要を紹介する。
会合名:JARPAレビュー会合
日 時:1997年5月12日から16日まで
場 所:東京晴海のホテルマリナーズコート東京
主 催:IWC
出席者:米国、オランダ、ニュージーランド、豪州、ノルウェーなど10数か国から
44人の科学者
1.目視調査及び資源量推定について
JARPAでは、鯨体標本の採集調査(捕獲調査)と併行して目視調査も同時に実施している。
目視調査で得られるデータは、捕獲調査で得られるデータとともに、資源量推定に役立っている。
この会合では、ランダムサンプリング手法の厳守に伴って、予定された目視活動の一部が消化できないことによって資源量が過小評価されていることが指摘された。
これは、現在のランダムサンプリング手法では、1日に航行すべき距離が決められているため、多くの捕獲活動を行うと、目的地到着のため高速な航行が必要となり、結果として当日の目視活動が消化できない状態になることを指摘したものである。
これに対して、英国の専門家が推定方法の補正を行って計算した場合、IWCが南極海で実施している目視調査(IWC/IDCR航海)とほぼ同水準のミンククジラの資源量が算出されており、この補正方法はまだ十分ではないが、更なる方法論の開発によって対応が可能との認識がなされた。
2.系群構造(クジラの生息グループの分布、生態系構造)について
クジラの系群については、捕獲調査で得られた肝臓サンプルのミトコンドリアDNA(デオキシリボ核酸)の分析が進み、正確な調査データの蓄積と研究の進展に対して高い評価がなされた。
また、今後、核DNAの分析などの新たな手法や繁殖海域での標本収集が必要であるなどの建設的なコメントが寄せられた。
さらにこれらの分析によって、南氷洋には、少なくとも一つ以上の系群が存在することが新たに判明した。
3.生物学的特性値について
日本側から、自然死亡率(M)と加入量(R)の推定や性成熟年齢の推定などの論文を提出した。
生物学的特性値がはじめて計算されたことから一定の評価が与えられた。
他方、本調査の資源量推定において高密度海域でのクジラの過小評価やサンプルの年齢組成に偏りがあることなどから今後の調査での改善の必要性も同時に指摘され、同特性値に対する科学者の興味の探さが強調された。
ほかの収穫としては、特に性成熟年齢の低年齢化について、十数年前から対立意見となっていたが、今回の検討結果として実際に起こっていることが科学者間で合意された。
更に、これまでの意見と異なり、生物学的特性値がRMP(改訂管理方式:資源量の特定と漁獲可能量の推定を行うIWCが策定している管理の方式)の条件設定や性能を向上させて、資源管理の改善に大きく貢献する可能性があることが合意された。
4.鯨類の生態系における役割と環境変化における影響
日本の行ったクジラの肥満度や脂肪厚の経年変化、餌の消費量などに関する一連の研究成果が高い評価を受けた。
これによって、生態系を対象とした包括的な研究を推進している本調査の目的や意義が再認識される結果となった。
また、環境調査の不足が指摘され、例えばオゾンホールや地球温暖化などの大規模な環境変化に対する調査については具体的な仮説を立てて海域を限定して調査すること、また、他漁業資源管理機関(CCAMLRなど)と協力のうえ調査の充実を図ることなどが示唆された。
5.今後のJARPAの目的達成、鯨類資源管理への貢献の可能性について
以下の内容が本会合の総括として合意された。