捕鯨者を救え

(American Spectator, February, 1995 より翻訳)

David Andrew Price



昨年1月のある朝、ノルウェーにある港町 GRESSVIK に住む ENGHAUGEN 氏は、彼の捕鯨 船がいつもより沈んでいるのに気が付いた。 船に乗って調べたところ、船はまさし く沈んでおり、誰かが海水弁を抜いて、機関室に鍵をかけていたことが判明した。 鍵をあけたところ機関は水面下に沈んでおり、シー・シェパード(カリフォルニア の小さな環境活動グループで捕鯨者に対する実力行使で知られている)からのメッ セージが残されていた。 彼の船を含めて、シー・シェパードは1979年以降ノルウェー、 アイスランド、スペイン、ポルトガルの船を11隻沈めたり、壊したりしてきた。

船は1994年の漁期には間に合ったものの、彼の災難は終わったわけではなかっ た。 7月1日、オランダ沖を探鯨中にグリンピースの活動家5名がゴムボートから 船に乗り移り捕鯨砲を占拠しようとした。 一人は乗組員に海に放りこまれ、残りは 海に飛び込んでゴムボートに拾われグリンピースの母船に戻った。

一週間後、彼の船が鯨をしとめたところ、他のグリンピースのグループの船が鯨を 逃がそうとして銛網を切断した。 またあるグループは再び船に乗り込もうとして乗 組員に放り出された。 ENGHAUGEN は1隻のグリンピースのゴムボートに鯨の解剖ナイ フで穴をあけた。次の2週間、彼と乗組員はグリンピースの船とヘリにつきまとわ れた。

彼らは ENGHAUGEN の捕鯨を阻止することはできなかったが、アメリカでの彼らの広報 活動についてはまた別の展開をみせた。 過去20年にわたる鯨救済運動は捕鯨業に 対する大衆の反対を盛り上げることに成功し、米国や他国は捕鯨モラトリアムを採 択した。この功績の一部は、はるかに国際的保護を受けていないクルド人、ボスニ ア人、ルワンダ人よりもテレビでカリスマ性を持っている鯨そのものに帰すべきで あろう。 その成功は、反捕鯨者のインチキな主張にハリウッドやマスコミがだまさ れたことによる。

鯨を絶滅させるという主張の根拠は間違った情報によるものである。 19世紀の捕 鯨華やかなりし頃欧米諸国や米国が無数の鯨を殺したことは事実であるが、「鯨」 が絶滅に瀕していると主張することは、「鳥」が絶滅に瀕していると主張するのと 同じくらいに意味が無いことである。鯨には70種類以上がおり、それぞれの資源 量はそれぞれ大変異なっている。 あるものは絶滅に瀕しているし、あるものはそう ではない。シロナガス鯨、コク鯨、ザトウ鯨は確かに枯渇しているが、これらはグリ ンピースやシー・シェパードが出来るずっと前から国際条約によって保護されている のである。(そこには、ロシア環境健康問題専門家の ALEXEI V.YABLOKOV が暴露し たように1960年代に旧ソ連の船が保護鯨種であるセミ鯨を700頭以上も違法 にとったという問題もあったが、1972年に出来たIWCのオブザーバー計画に よりソ連の違法操業は事実上終了した)

ENGHAUGEN や彼の仲間がとっている鯨はミンク鯨だけであり、ノルウェー人はこれを ステーキやミートボール、バーガーにして食べている。 ミンク鯨はアンガス牛ほど も絶滅の危機には瀕していないのである。 1994年に合計279頭のミンク鯨が 捕獲されたが、そこには約87000頭が棲息し、世界中では総数で約90万頭が いるのである。

IWCは1982年、1986年から5年間の商業捕鯨を禁止した。このうわべ上 の目的は捕獲開始前に鯨についてのより正確なデーターを集めるというものであっ た。 ノルウェーはIWCで認められる権限により異議申し立てを行ったが、その禁 止には自発的に従った。

しかしながら捕鯨国は,米国を含む大多数のIWC加盟国の本心が 鯨の頭数がいくらで あろうとも モラトリアムを無期限に維持する事であることを,すぐに悟った。 カナダは1982年に,アイスランドは1992年にIWCを脱退した。 ノルウェーは商業捕鯨の自粛を1993年に解除した。 鯨資源の実状を無視した委員会に抗議して、イギリスのIWC科学委員会議長は、 委員会の行為は科学とは無縁であることを怒りを込めて辞任状にしたためて、その 年に辞任した。 いずれにしろ、IWCはモラトリアムを翌年の会議で継続した。

1993年の議会調査局(CONGRESSIONAL RESEARCH SERVICE)によれば、鯨に関する データーは保護主義者の主張を弱めるものであり、“もし米国が商業捕鯨モラトリ アムの継続を主張するとすれば、さらに倫理面に頼らざるを得なくなるだろうと認 めている。 捕鯨の禁止はもう保護の問題ではなく、言い替えれば、アメリカや西欧 の鯨に対する考え方を捕鯨国(アイスランド、ロシア、日本、カナダ・アラスカの エスキモーを含む)に押し付けるものである。

捕鯨反対者がよく口にする、鯨は人間のように知的であるという考え方には殆ど根 拠がない。 鯨類は大きな脳を持ってはいるが、そのことと知的能力とは別の問題で ある。 鯨類知能研究の専門家であるケンブリッジ大学の MARGARET KLINOWSKA は、鯨 の脳の構造はハリネズミやコウモリなどの原始的動物と多くの共通点があると考え る。

鯨類は訓練して芸を行わせることも出来るが、これは人間に匹敵する頭脳を 持つなどと決して言われることのないハトや他の動物でもあてはまることである。 また、鯨が人間の言語のような機能を持つという話もあるが、これも今の 所単なる言い伝えに過ぎない。 他の多くの動物同様,鯨も音声を発するが,それらが単語や文章を形成している という証拠は何も無いのである。 よく知られた”歌”も,1年の半分の時期に雄だけによって発せられており, 言葉というより鳥のさえずりに近い。

鯨類の知性に関わる迷信の多くは変人科学者 JOHN LILLY におうところが多い。 彼は 医者であり1950年代に鯨やイルカは人間より賢いだけではなく、より多くの伝 達手段をもっている。 さらに独自の文化、哲学、歴史、科学を持っており口伝えに 子孫にそれらを伝えていくことを確信するに至った。 これは彼のバージン島の研究 所で飼っていたイルカの観察から得られたものであるが、殆どは粗雑な論理の飛躍 によるところが多い。 彼はまた1970年代後半に、国務省が鯨類と条約を結び、 彼らと交わることで人間性を培えば「銀河系共存管理センター」は地球に使者を派遣し 異星人との接触の機会を与えるだろうと予測している。 鯨の人格化は1993 年にシー・シェパード代表の PAWL WATSON がノルウェーに公開状を送った時に新た な頂点に達した。 このレターで、彼は“鯨達は貴方達に対して、ユダヤ人がナチス に対して抱くような感情を持つだろう。 鯨達の目には、ドイツ帝国の怪物達も捕鯨 砲の後ろにいる怪物達も同じに映るだろう”と述べている。

鯨類行動の研究者達は LILLY の主張を認めなかった。 サンタクルスのカリフォルニア 大学のイルカ研究者 KENNETH NORRISHA は野生のイルカを研究した中の一人で、イルカ の音波探知に関する我々の知識は殆ど彼におっているわけだが、彼の著書によ ればイルカは“複雑な動物の伝達手段を持ってはいるが我々のような統語的な システムとなると、それを持っているかどうか確かな証拠はない”と述べている。 フロリダ大学でイルカ行動を研究した DAVID と MELBA CALDWELL は“イルカが 話をすることはない”と断言している。“イルカは、殆どの研究者が考えるように、 一般の犬よりは幾分知能が高い程度の、異常に人懐っこいだけの動物だろう”と述 べている。

ハワイ大学の海産哺乳類研究所の部長で反捕鯨でもある LOUIS HERMAN は、1967 年以降飼育イルカを1976年以降野生イルカの行動を研究したが、自然状態での イルカの発声が言語を構成するという証拠は無いと述べている。 では鯨はどうか? “他の鯨類がイルカと異なるとは考えにくい”と彼は言う。

捕鯨取締りに対するアメリカの政策はまさに文化の押し付けである − これは我々が フランスで好まれる馬肉を毛嫌いするのと同じである 。鯨保護者達は、鯨は海に住 むアインシュタインで絶滅に瀕しているなどという考えを売り込むことに成功した。 こういった理由により、グリンピースの陰謀を描いたアイスランドの映画製作者 であるマグナス・グドムンドソンが、これらの運動を“巨大な欺瞞産業”と呼 ぶこともうなずけるのである。

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