鯨資源の改定管理方式(I)

(日本鯨類研究所 1996年 9月発行「鯨研通信」第 391号より)

田中 昌一
日本鯨類研究所



改訂管理方式開発への歩み

 捕鯨の歴史は乱獲の歴史といわれる。 南氷洋においては大型鯨類がつぎつぎと乱獲され、1970年に入ってからは、それまで ほとんど無視されていた小型のミンククジラが主要対象になるに至った。 このような状況のもとで、鯨資源の管理に責任をもつ国際捕鯨委員会(IWC)に対して 内外から批判が向けられ、IWCも 1972年には永年の懸案であった鯨種別の管理を 導入するなどの対応をとった。 1972年ストックホルムの人間環境会議で、突然捕鯨 10年間モラトリアムの決議が採択 された。 このことは IWCに大きな影響を及ぼすことになる。 さっそくその年の IWC年次会合で米国の委員は、捕鯨モラトリアムを提案したが、 条件の異なる多くの鯨資源に一括してモラトリアムを適用する科学的根拠はないとして 退けられた。 1973年の会合でもモラトリアムは否決された。 モラトリアム提案は退けながらも、IWCは鯨資源管理の抜本的改革を迫られることに なり、1974年会合で、モラトリアムヘの対案として、オーストラリアが鯨資源を 初期管理資源、維持管理資源および保護資源のいずれかに分類することを骨子とする 新管理方式を提案し、米国の賛成も得てこれが採択された。 科学委員会は委員会からの要請を受けて、3分類の基準を作成し、1975年会合で 条約付表が改正され、1975−76の南氷洋捕鯨からこれが適用された。

 新管理方式(NMP)の採用により、水産資源学の原理に基づく科学的資源管理方式が 確立されたように見えたが、NMPは新たな問題を引き起こした。 この管理方式により、ナガスクジラやイワシクジラの資源で減少が顕著であったものが つぎつぎと保護資源に分類され、それほど減少が顕著でないミンク、ニタリ、 マッコウ等が残された。 これらの資源をめぐって、科学委員会のなかで激しい議論が戦わされ、しばしば 合意に達しないというようなことが起こった。 新管理方式の提案者オーストラリアのアレンも述べているように、NMPは多くの 生物学的パラメターなどの情報を必要とする。 ここで、利用可能な最良の情報という条件を強めて、科学的正確さを厳しく要求 すると、ほとんどの必要情報が得られていないということになり、科学者の意見が 別れて、この方式の運用がうまく行かなくなったのである。 このように不十分な情報しか得られていない状況のもとで鯨資源の安全を確保する には、モラトリアム以外にないということで、1982年の委員会でこれが採択されるに 至った。

 モラトリアムを採択するにあたり、IWCは、捕鯨再開の可能性を検討するために 1990年までに各鯨資源の包括的評価を行なうこととした。 しかし、すでに得られているデータの範囲で包括的評価を行なうことの困難さが予見 される一方で、不十分な情報のもとでも機能する管理方式があり得るということで、 資源の評価と管理方式の関連が科学委員会のなかで認識されるようになった。 科学委員会は 1985年に、包括的評価推進のための特別会合とともに、制御理論の 専門家も含めた管理方式ワークショップの開催を提案した。

 1986年 4月イギリスのケンブリッジで、科学委員会の特別会合が開かれ、包括的評価 の作業の内容として、評価の方法、ストックの識別および利用可能なデータについて 検討を行ない、必要なデータを入手するための調査計画を立案するとともに、新しい 資源管理体制を開発すべきことが決められた。 この会合に田中は「資源管理の一つの実際的方法について」という文書を提出した。 この方法は、資源モデルや生物学的パラメター等は一切用いず、資源量の相対的指数の 水準と変化の傾向だけで捕獲量を調整するというものである。 シミュレーションの結果では、フイードバックによる制御を意識的に取り入れた この方法は十分に機能することが示された。 この年の IWC年次会合はスエーデンのマルメで開かれたが、その際の技術委員会・ 科学委員会合同会議でも、田中はフイードバックによる管理の有効性を強調した。

 1987年 3月にはアイスランドのレイキャビクで資源管理に関するワークショップが 開かれた。 このワ一クショップには 4つの管理方式が提案されたほか、今後の管理方式開発の 段取りが決められた。 第一段階で、提案された方式の特性を明らかにするための基本的テストを行ない、 このテストをパスしたものについて、さらに苛酷な条件のもとで第二段階のテストを 行ない、それぞれの方式の性能や頑健さを調べることとした。 テスト条件の中には、資源量推定値の偏り、環境変動による資源の変化、資源ごとの 分布境界の線引の誤り、等が含まれている。 1988年の科学委員会には、さらにもうひとつの方式が提案され、5つの提案が そろった。 これらの諸方式について電算機シミュレーションによるテストが繰り返され、次第に 各方式の特徴が明らかになっていった。 1991年のレイキャビクの科学委員会で、5つの方式のうちのいずれを採択すべきかに ついて真剣な討議が行なわれたが、結果の安定性、頑健性、資源に対する安全性、 方式の単純さなどの条件を総合的に判断して、J.クックによって開発された方式を 採択すべきことが決められた。 なおここで採択された方式はひげ鯨資源の管理に関するものであり、歯鯨類には適用 されない。

 一つの方式が採択されたことによって、改訂管理方式の開発は仕上げ作業の段階に 入った。 そして 1992年の会合では、改訂管理方式の捕獲限度量計算法の明細がまとめられ、 委員会に提出された。 委員会はこの明細を承認し、これを以て改訂管理制度策定作業のうちの科学的側面の 主要部分は完了したものと認め、さらに計算方法の全体を記録した最終文書を提出する ように科学委員会に要請する決議を採択した。 翌 1993年の京都会議で、科学委員会は改訂管理方式の仕様書およびその注釈を委員会に 提出し、委員会は翌年この文書を正式に受理し、改訂管理方式の開発は一応完了した。

 このようにして完成された改訂管理方式(RMP)には、水産資源の管理に関し、 さまざまな新しい考えが導入されている。 新管理方式(NMP)に表現されているような従来の資源管理の考え方にとどまって いると、このような新しい考え方を理解することが難しいかもしれない。 以下では、改訂管理方式のよって立つ基礎理論をなるべく平易に解説するとともに、 科学委員会によって作られた仕様書(Rep.int.Whal.Commn 44:145−167)に 基づいてその内容を紹介することにする。 さらに、資源管理という現実的仕事に対応するためのこの方式の技術としての特徴を 示し、また IWCで現在も議論が続けられている改訂管理制度(RMS)についても触れる ことにする。


未知の値を推定する方法

 変動しているある量の値が一つわかった時、この値からなにかについて推量しようと するとき、どのような方法があり得るだろうか。 たとえば東京であることの起こった日の最高気温が 31℃であったとすると、おそらく この事件は真夏に起こったと推測するだろう。 少なくとも真冬に起こったと考える人はいない。 この推測の裏には、真夏に最高気温が 31℃に達することは普通のことであるが、 真冬にはそんなに暑くなることは、異常気象だとしてもありえないという判断がある。

 このように、気温の季節変化の情報から、可能性の最も高い日(又は時期)をもって そのことの起こった日(又は時期)と推定するというような考え方は、統計的推定法と して広く用いられている。 今ここに身長が 133cmの日本人の男の子がいる。 その子は自分の年がわからない。 統計によると最近の日本人の 8才の男の子の平均身長は 128cm、9才は 132cm、10才は 139cmである。 この男の子を 9才と推定することは尤もなことである。

 別の問題を考えてみよう。ある銀行預金で、現在の残高と、過去に引きだした金額の 記録だけが知られているとき、最初の元金がいくらだったかを推測する問題を考えて みよう。 ただしこの預金には、元金以外に入金はないとする。 ここで未知数は、元金と利率である。 適当に元金と利率を与え、引きだし記録に基づいて、現在の残高を計算してみる。 計算残高が実際の値と食い違っていれば、また別の元金と利率を与えて同様の計算を する。 このようなことを預金残高と計算値が一致するまで繰り返す。 大変な計算のように見えるが、コンピューターはこのような計算もわけなくやって しまう。 正確に残高を再現する元金と利率の仮定値が真の値として受け入れられる。 ここで問題は、元金が大きく利率の低い場合と、元金は小さくても利率が高い場合は、 同じ残高を与えることがあるということである。 ここでもし、今時の銀行利率が年 1%を越えることはあり得ないとわかっていれば、 利率 0〜1%の間についてだけ計算して、他の場合を無視することができる。

 ここで、元金がいくらだったかを計算しようと思い立った理由が、もし残高が元金の 半分以下になっていれば、今後引き出しを減らしたほうがよいと思ったからだと しよう。 利率 0〜1%の範囲で求めた元金がすべて残高の 2倍以下であれば、残高は半分までは 減っておらず、引き出しを減らす理由はない。 もしすべて 2倍以上であれば、半分以下であることは確実だから、引きだし制限が 必要である。 ところで、もし利率が 0%なら 2倍以上、1%なら 2倍以下と、両方の可能性がでてきた 時はどうするか。 銀行の利率についてもっとくわしく調べて、0〜1%という範囲を狭めようとするのも 一つの手であるが、ずぼらな人なら、ちようど 2倍になるところの利率が 0%の方に 近ければ 1%の時の結論を、1%の方に近ければ 0%の時の結論を採用するかも しれない。 なぜならば、たとえば 0%の方に近いならば、0%の時の結論が正しい範囲(可能性) よリ 1%の時の結論が正しい範囲(可能性)の方が大きいからである。 銀行の利率について、1%以下であるということ以上の情報が全く得られていないと すると、0〜1%の間での範囲の広さによって判断するということもそれほど不合理とは 思えない。

 このように未知の値の可能な範囲を考えたり、あるいはその範囲のなかのどの値が より尤もらしいかを事前に想定し(しばしば主観的になされる)、この事前の情報と その後の調査の結果を組み合わせて、ある判断を下したり、推定をしたりする統計学を ベイズ統計という。

 ここで、二つの、一見別々の未知パラメターの推定の例をあげた。 一つは変動(誤差)をともなう観測値から、そのような観測値の得られる可能性の 大きいパラメターの値を真値とみなすこと、他の一つは未知パラメターの考えられる 範囲について現実を再現するシミュレーションを行ない、うまく再現できた パラメターの値をもって真値とすることである。 この二つの方法は、たとえば銀行預金の残高が誤差を含んでいるような場合 (預金管理を全く他人まかせにしているが、その人は 1000円未満を四捨五入して 報告しているなど)は、これらの二つの方法が一つの推定手続きとして 組み合わされる。 改訂管理方式(RMP)は、このような論理から成り立っている。


改訂管理方式の考え方

 銀行預金の場合、利子の計算の仕方が決まっているので、元金と利率および引きだし 記録が与えられれば、現在の残高が計算できる。 同じように、ひげ鯨資源の繁殖の法則(資源量動態の法則)がわかっているとき、 捕鯨業の始まる前の資源量(初期資源量)、鯨の繁殖力(繁殖の法則に含まれるある パラメター)および過去の捕獲の記録を与えると、現在の資源量が計算できる。 一方鯨の分布している水域を広くカバーするような調査を行なって、現在の鯨資源頭数 を推定することができる。 この推定値には、もちろん誤差が含まれているが、その誤差の法則は経験的にわかって いるとする。 初期資源量に対する現在の資源量の比は、資源の減少比を与える。 この減少比に基づいて、減少が少ないときはある程度の捕獲を許すが、ある限度を 越えて減少してしまった資源からの捕獲を禁止するというルールが定量的に定められる と、捕獲頭数が計算できる。

 このような条件のもとで、初期資源量およびひげ鯨の繁殖力に関し、可能性のある 範囲全体についてさまざまな値を仮定して、現在資源量を計算する。 そして仮定の値から計算された資源量が正しい値(母数)であったときに実際に観測 された値が得られる確率(尤度)を、観測誤差の法則に基づいて計算する。 初期資源量および鯨の繁殖力の可能性のある範囲をどうとるかは、重要な問題である。 かなりの情報があればその範囲を狭くとることができ、結果もシャープに出てくる ので、意志決定がやりやすい。 情報が少なくいろいろな可能性が考えられるときは、広くとったほうが間違いは ないが、結果がぼやけて、どのような意志決定をすべきかがあいまいになる。

 資源の減少比は、計算された現在資源量の、仮定された初期資源量に対する比として 与えられる。 捕獲限度量は、減少比がある値以下になったときは 0に、この値より大きければ 大きいほど高い捕獲率を許すこととし、計算された現在資源量にこの捕獲率を 掛けたものを捕獲限度量とする。

 最初に仮定する初期資源量および繁殖力の値によって、計算される捕獲限度量は 異なる。 この捕獲限度量を小さい値から大きな値へと順に並べることができる。 それぞれの限度量には尤度も同時に計算されている。 この尤度を、捕獲限度量を横軸にとってこれに対して図示すると、頻度分布のような 図が得られる(図 1)。 その形はさまざまであろうし、また複雑な形をしているかもしれない。 一般的にいうと、極端に高い、あるいは低い限度量に対応した尤度は低くなっている だろう。 したがって限度量の小さいほうから順に尤度を加え合わせて累積していくと、左右の 端で傾斜がゆるく、真ん中付近で急に上昇するような、いわゆる S字状曲線が得られる (図 1)。


 ここで、実際の捕獲限度量をどこに決めるかが問題である。 もし左端の値(しばしば 0である)をとると、これはあまりにも悲観的である。 もっと大きな限度量が許される可能性が大きい。 もし右端の値をとるならば、これは楽観的に過ぎる。 限度量をもっと小さくしなければならない可能性が大きく、資源をさらに減少させて しまう恐れがある。 常識的にいって、真ん中辺り、つまり限度量がこれより大きい可能性と小さい可能性が ほぼ同じになる所の値(図中の X)を採用するのがよさそうに思われる。 この付近では尤度も高くなっていて、真の結果を代表している可能性も高い。


管理方式適用に当たってのいくつかの基本的問題

ストックの問題

 先に示した改訂管理方式は単位となる生物の集団(しばしばストックと呼ばれる) ごとに適用される。 単位となる生物集団とは、それ自体が独立して繁殖しており、他の集団との交流が ないか、あっても大勢に影響のない程度であるような集団のことである。 独立して繁殖しているため、ストック独自の人口動態法則をもっており、これを 基礎として資源の管理が行なわれる。 繁殖活動と密接にかかわっているので、魚の産卵場や鯨の繁殖海域がストックを分ける 重要な鍵になり、また遺伝的特性がストック間では異なる傾向がある。 魚の例でいうと、日本近海のサンマは一つのストックと考えられ、北米沿岸にいる サンマとは別のストックとされている。

 生物学的あるいは漁業に関するいろいろな情報から、ストックが明確に区分され、 その分布範囲が明らかになり、ある漁場に来遊する魚群がどのストックに属している かがわかっていれば、そのストックを他のストックとは関係なしに管理することが できる。 たとえばもし、一つの漁場のなかにいくつかのストックが来遊し、漁獲物のなかに いくつかのストックからの個体が含まれているとすると、ストックごとの管理が 大変難しくなる。 資源管理に当たって、ストックの分類がまず問題になるのはこのためである。

 南氷洋のひげ鯨は古くナガスクジラなどの研究により、いくつかのストックから なることがわかり、資源の管理のために南極大陸をとり囲む海域は経度によって 6つの海区に分けられた。 ミンククジラの場合も、それぞれの海区がストックに対応しているとの前提で、 捕獲枠はこの海区ごとに決められていた。 ところが、標識放流再捕の結果、繁殖海域と考えられる低緯度海域での分布などから、 ミンククジラのストックは 6つの海区の区分には対応していないらしいことが わかってきた。 特に、日本が南極海で捕獲調査を行ない、ミトコンドリア DNAを使った最新の技術で 遺伝的類似性を研究してみると、従来の海区分けとはかなり異なった分布の様子が 見えてきた。

 ある海区の捕獲が複数のストックの鯨から成り立っている時、あるいは一つの ストックの鯨がいくつかの海区で捕獲されている時、それぞれの海区を管理の単位と する改訂管理方式の基礎にある資源量動態の法則や、過去の捕獲統計が適用できなく なる。 現在の所、鯨のストックに関する情報は不十分であり、さらに海区別に集計されている 過去の捕獲量をストック別に再分類することはほとんど不可能である。

 ストックに関する情報の欠如で最も具合の悪いことが生じるのは、小さなストックと 大きなストックの分布が重複しているようなときである。 これらをまとめた資源量の情報のなかでは、大きなストックに関する情報が卓越して いるため、楽観的結論が導かれ、小さいストックに対して決定的ダメージを与えて しまうこともあり得る。 改訂管理方式の適用に当たっては、このようなことが起こらないように対処しなければ ならない。

 幸い、鯨のストックの分布や回遊にはまだわかっていないことが多いとはいえ、 大まかなことはわかっている。 繁殖場と、それに近い索餌場の間を季節的に回遊している。 一つのストックはまとまって分布をする傾向があり、モザイク状に分布しているわけ ではない。 とすると、ストックの境界ははっきりしていなくても、小さく分けられた海域のなか では一つのストックだけが卓越している可能性が高い。 またそのような小海区の中での鯨の分布は比較的でたらめ(厳密にいうと確率的)に なり、二つ以上のストックが混合していたとしてもよく混じり合っていて、その一方 だけに偏って捕獲をする可能性が小さくなる。 とすると、ストックの分布とはかかわりなく、海域を細かく区分した管理単位を設定 すれば、特定のストックに強い圧力をかける可能性を軽減できるだろう。

 ストックの分布に大まかに対応する海区を中海区とする。 南極海の場合ほぼ現在の 6つの海区に対応すると考えてよい。 中海区はお互いに重なり合ってもよい。 中海区をさらに細かく区分する。 南極海の場合、経度 10°ごとに分けられている。 捕獲限度量はそれぞれの小海区ごとに決められる。 小海区ごとの限度量の計算の仕方は大きく分けて二つある。 一つは中海区に対して求められた限度量を、それぞれの小海区ごとの資源量に比例して 配分する方法(cascading)である。 他の一つは、それぞれの小海区を独立した単位として扱って、個々の限度量を計算し、 それぞれの小海区にこれを適用すると同時に、中海区に対してはその中海区について 計算された限度量を適用するというものである(capping)。 したがって中海区に含まれる小海区ごとの限度量の和が、その中海区の限度量を越える 時は、小海区と中海区の限度量によって二重の規制を受ける。 この方法は比例配分の方法と併用されることもある。 二つの方法のいずれを適用するかは、それぞれの海域や鯨種毎に具体的に検討する ことになっている。

 このようにすると、いくつかのストックを混合して捕獲したとしても、大きな ストック、小さなストックはそれぞれそれなりの捕獲を受けることになり、また 捕獲の影響が分散されて、いずれかのストックが予期以上の圧力を受けることが なくなる。

 カスケーディングやキャッピング法で、ストックの問題が一応解決されたとしても、 これは安全を見込んだ消極的な方法である。 ストックの境界がより明確になれば、安全性が向上するだけでなく、計算される 捕獲限度量も増加すると期待される。 したがって、ストックに関する調査や研究を進める必要があるが、それによって 海区分けや限度量計算の方法を再検討する必要も生じてこよう。 改訂管理方式では、一応 5年以内に見直しを行なうこととされている。


フェーズ アウト

 改訂管理方式では、過去の捕獲統計と一つの資源絶対量の推定値があれば、 捕獲限度量が計算できる。 だからといって、たった一つの資源量推定値を出したあと、もう調査はやめてしまう というようなことは許されない。 年とともに資源量や資源の状態は変化しているだろうし、それよりも、そのような 怠惰な考え方では、すべてのことがうまく行くわけがない。 したがって調査を実行しないような場合には、それなりのペナルティが必要である。 これを実行するのが、改訂管理方式のフェーズ アウト ルールである。

 このルールによると、過去 8年以内の資源量のデータがない場合は、最近年の 捕獲限度量を 8年を越える 1年ごとに 20%ずつ削減する。 したがって、8年をこえて 5年間調査を行なわないと、限度量は 0となる。 このルールは小海区ごとに適用されると考えてよい。 漁場内を満遍無く調査することが要求されているといえる。

 捕獲限度量の計算は 5年ごとに更新されることになっているのにくらべて、 フェーズ アウトの 8年は少し甘すぎると思われるかもしれないが、調査を実施して その結果を解析し、資源量の推定値をだすまでに 2年くらいかかることもあるので、 必ずしも甘いとは言えない。

 捕獲限度量を計算するための資源量の推定値は、目視調査のような方法で、IWCの 科学委員会で認められた手続きによって収集、解析されたものでなければならない。 漁業活動にともなって得られる漁獲努力当たり漁獲量(捕鯨船稼働 1日当たり捕獲数 など)は、資源の相対的指数として一般の魚類資源の解析には広く用いられているが、 改訂管理方式の開発に当たって、捕鯨の場合正しく資源の相対的変化を示さないなど 種々の問題点が指摘され、現在の方式では用いないこととされている。


雌雄比

 改訂管理方式の計算に当たって、雌雄は区別せず、合計した数値を用いている。 これには、資源量推定値を出すのに、目視調査では雌雄が区別できず、合計の数字しか 得られないことが関係している。 マッコウクジラのようにハレムを作る種類では性別の数を把握することが要求 されるが、ひげ鯨では雌雄ほぼ同数で、性別に動態を検討する必要性はそれほど 高くない。 しかし時期と場所によって雌雄が棲み分けており、捕獲鯨の性比が 50:50から著しく 離れていることがある。 南氷洋のミンククジラの商業捕鯨のデータでは、雌が多い。 最近の捕獲調査の結果から、分布密度の高いパックアイス際には成熟雌の多いことが 裏付けられた。 雌は子を産む再生産の要であるが、雌に偏って捕獲すると、雌資源を選択的に減らして しまう恐れがあるので、このようなことは避けなければならない。

 改訂管理方式では、このことも考慮されている。 ある小海区で、捕獲限度量を計算する前の 5年間の捕獲物中で、雌の割合が50%を こえているときは、その小海区の限度量に 0.5/(雌の割合)を掛けて調整する。 雌の割合が 0.5なら、この係数は 1であるから調整は行なわれない。 もし雌の割合が 1.0なら、この値は 0.5となる。 結果として捕獲雌の数は調整前の捕獲限度量の 1/2を越えることはない。 捕鯨業の側では、なるべく計算された限度いっぱいの捕獲を望むだろうから、雌ばかり 集まっている漁場は避けるようになるだろう。

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