鯨資源に対する資源量推定は、様々な方法が試みられてきた。
その代表的なものは、捕獲資料を使用する資源量推定法の一つである単位努力量当たり
の捕獲量(CPUE)の解析である。
これは、レスリー/ドウルーリーによって提案された方法で
(図 1)
、CPUEの減少と
累積漁獲量の関係が回帰直線式で表され、この回帰直線が CPUE の 0 の値と交わる
点の累積漁獲量が初期資源量を表すことを利用したものである
(Mackintosh 1965: Seber 1982)。
この方法は 1960 − 70年代に IWC 科学委員会でよく利用され、オーストラリア沖の
ザトウクジラ、南極海第 3 区のイワシクジラそして北太平洋産のニタリクジラの
資源量推定に適用された。
しかし、この方法の基本的な統計量である努力量の信頼性及び資源量の変動と CPUEの
関係の不確実性が問題となり 1980年代に入りほとんど使用されなかった。
1970年代に入ると、当時から急速に発達したコンピューターを利用し資源特性値を
用いて資源量を推定する方法が適用されはじめた。
解析には主に2つのモデルが用いられた。
その一つは、余剰生産モデルであり、他の一つは、解析的モデル、例えば BALEEN
モデル(Report of the IWC[RIWC」: 29,1979)、である。
これらの方法は、捕獲鯨数と生物学的情報、例えば加入年齢や妊娠率そして自然死亡率
を使用して推定する方法である。
これらの方法は、南大洋のナガスクジラ・イワシクジラ・ミンククジラ等の
ヒゲクジラ類に使用された。
これらの方法は、偏りのない生物学的情報に強く依存するが、生物学的情報は商業捕鯨
から得られ、多くの場合これらの情報は偏りをもっていた。
陸上の動物等の生態調査や資源量調査に使用されていた標識−再捕法も鯨に
適用された。
この方法は、標識をつけた個体を個体群に放流し、それがどの程度の割合で回収される
かを調べることにより資源量を推定する方法(再捕された標識個体の捕獲数に対する
割合は、全資源量における標識個体全数の割合と等しいとの仮定に基づく)である。
鯨資源では、英国のディスカバリー委員会が南大洋で 1932年から大型鯨類への
標識調査を組織的に開始した。
この標識調査は、鯨類の分布、移動、成長、年齢に関する情報を提供するとともに、
現在資源量に関する情報も提供する。
この方法は、数多くの鯨資源に適用され、貴重な生物学的情報を提供したが、
資源量推定では、標識鈷の脱落率の不確実性等が後に問題となり資源量推定の
合意には至らなかった。
目視法
上記の間接的方法と異なり捕獲量や捕獲努力量、生物学的情報に頼らずに直接個体の
数を数えて資源量を推定しようとするのが目視法である。
この目視法による野生動物の資源量の推定は、1930年代から行われていたが、
1960年代に入りその調査法や推定法が急速に開発された。
当初、目視資源量推定は主に陸上の動物、鹿や兎等に対して行われていたが、1960年代
以降ウズラ・ライチョウ・アヒル等の野鳥や有蹄類そしてトカゲ等のは虫類にまで
適用されるようになった。
鯨類に適用される様になったのは、主に 1970年代に入ってからであり、1980年代
後半にはほとんどすべての鯨類個体群の資源量推定はこの目視法に基づくように
なった。
線状調査法(ライントランセクト法)
生物の全数を数えることは、その生物集団の量を推定する最も直接的で素朴な方法で
ある。
しかし、普通生物集団は広い範囲に分布しており、すべての個体の数を数えることは
大変時間と費用がかかり、不可能ではないにしても非現実的である。
さらに対象とする動物が自由に動き回るものであったり、単位面積あたりの密度が
小さい場合などは実際的な方法ではない。
この様な広い地域に分布し、その密度が小さくかつ動き回る対象等に対して開発された
のが
線状調査法(以下ライントランセクト法)
である
(Wildlife Monograph 72,1980)。
ライントランセクト法では、あらかじめ設定された調査線上を観察者
(船・飛行機・自動車・人間)が一定の速度で移動し、調査線付近で発見された個体の
数と関連する情報(特に、個体の位置から調査線までの距離)を収集する。
今、簡単に理解してもらう為に、調査線から距離 w 以内の個体はすべて発見される
とすると、有効に探索した面積は、調査線の長さを Lとすると、2WL(調査線の
両側 2w)となる。
この 2Lw の面積内に n 個の個体が発見されたとすると、有効に探索した面積内
での個体の密度(D)は
D = n/2Lw
と推定される。ここで有効に調査された調査海域の面積を A とすると、調査海域内の
総個体数(N)は、
N = D・A = nA/2Lw
となる。
なお、実際には個体の発見されやすさや見逃し率等いくつかの要素が考慮されている。
南極海での目視調査
目視法の資源量推定や資源密度指数への適用は、Mackintosh and Brown(1956)に
はじまる。
かれらは、1933 − 1939年の南大洋におけるディスカバリーⅢ号航海で一定の方法に
よる目視観察を行い、この目視資料を使って南極海のナガスクジラ、シロナガスクジラ
そしてザトウクジラの資源量を月別に推定した。
この推定は、目視努力量の評価と定量化、それに対応する発見数の特定化、更に
発見関数と有効探索幅についての概念等が未熟であったものの、目視資料からの
はじめての資源量推定であった。
その後目視による資源量あるいは資源密度推定は、捕獲−努力量による資源量推定
あるいは資源モデルによる資源量推定のチェックに使用される程度で、独立した
推定値としては認められなかった。
しかしながら、1970年代後半に入ると、捕獲−努力量解析や資源モデルに使用された
CPUEデータの評価やその信頼性に関する疑問がだされたこと、また標識−再捕法に
おいても回収率が低く、信頼出来る推定値が出ないことや標識の脱落率に関する
不確実性等が問題となり、信頼出来る資源量推定値を得ることが急務となってきた。
1978年の科学委員会において当時南極海での主要な捕獲対象種となっていた
南ミンククジラに対する資源量推定の調査航海の必要性が叫ばれ、当時
南ミンククジラ資源評価の中心的な人物であった南アフリカのピーター・B・ベスト
博士、日本の大隅清治博士と山村和夫氏が中心となり、南極海での最初の組織的な
標識・目視調査航海が提案され、1978年 12月オーストラリアのフリーマントル港より
ベスト博士を調査団長とする第 1回南ミンククジラ資源評価航海(IWC/IDCR Southern
Hemisphere Minke Whale Assessment Cruise: 以下 IDCR 航海)が日本から 2隻の
調査船の提供を受けスタートした。
どの様にして行われているか
南極海は広大で、全ての海域を一度に調査することは不可能に近い。
そこで IWCは、毎年 6つある IWCの管理海区の 1つで IDCR航海を実施する
こととした。
毎年調査する海区と基本的な調査の内容は、毎年 IWCの科学委員会の合意に基づき
決定される。
IWC 科学委員会の指名を受けた数人の専門家がその後詳細な調査要領を決定し、
調査開始直前には専門家と乗組員との合同の打ち合わせも行われる。
調査航海でもっとも重要な要素の一つは、調査航路(調査線)の設計である。
南ミンククジラは、南極海に無作為に分布していないために、調査航路は可能な限り
無作為あるいは組織的に設定する必要がある。
一方、調査による資源量推定の精度を高める為には、南ミンククジラが数多く分布して
いる海域(南極大陸に近い海域)により多くの目視努力量を投入する必要がある。
これらの要素を科学委員会の専門家が検討し、現在鋸の歯の様な調査航路が採用され
ている。
図3
に 1983−91年の南極海で実施された IDCR航海の航跡図を示した。
IWCにより指名された 3名の国際調査員が乗船した調査船は、決められた調査線の上を
決められた速度で調査する。
発見があれば、直ちに接近し鯨種と個体数、その他体長・親仔の数や行動生態等を
記録する。
観察が終了すれば直ちにもとの調査線に復帰する。
接近中・観察中及び復帰中に発見された群れは、2次発見と称され、資源量推定には
含まれない。
鯨種の判定は、必ず鯨体の特徴を十分識別してなされる、仮に遠方で十分な精度を
もって識別出来なかった場合は、例えば「ミンクらしい」として記録され、資源量推定
には含まれない。
更に、国際調査員は、今発見した群れが既に記録された群れと同じではないかどうか
絶えずチェックし、多少でもその可能性がある場合は、記録に含めない。
ただし、船の調査速度は、通常 12ノットであり、南ミンククジラの遊泳速度約
3ノットよりかなり早いので、発見した群れは次々に後ろに置いていかれ、通常 2重に
記録することはほとんど起こらない。
発見した群れに接近する方法は「接近方式」と呼ばれ、最近は発見しても接近せず
連続して観察を続ける「通過方式」も「接近方式」と交互に採用されている。
発見された群れあるいは個体の観察記録は、50項目にもわたり、それらはコード化され
IWCのコンピューターに登録される。
更に、南極海での環境情報(氷の様子・水温・天候等)も記録されている。
調査航海の報告は、調査団長より IWC科学委員会で報告され、科学委員会委員で討議
され、その後の資源評価の基礎資料とされる。
その他、資源量推定に関わる鯨類の行動生態や推定上の重要な要素である
トラックライン上の発見確率の推定に関する様々な野外実験も行われた。
その概要を表 1に示した。
これらにかかった実験の経費(調査航海の費用を除く)は、およそ 2億 1千万円で
あり、その 9割以上を日本政府が支出した。
これらの、実験結果は鯨類の一般的生態を明らかにしたのみならず、目視による
資源量推定方法の精度向上に大きく貢献した(Distance sampling,1993参照)。
表 1 IDCR航海で実施した実験
鯨類の行動生態に関する実験
噴気観察 |
浮上して噴気する回数の観察 |
潜水時間 |
鯨類の潜水時間の観察 |
密度傾斜観察 |
鯨の密度がパックアイスから離れるに従ってどの様に減少していくかの観察 |
無線標識実験 |
鯨に装着した無線標識を使っての行動観察 |
鯨類の船に対する反応観察 |
調査船に対する鯨の反応観察 |
遊泳速度観察 |
鯨の遊泳速度の観察 |
調査方法に関する実験
計算距離精度実験 |
観察者が推定した鯨までの距離と船の速度と時間で計算された距離との比較 |
距離・角度推定 |
観察者が推定した鯨までの距離と角度の精度チェック |
カメラを使用した体長推定 |
カメラを利用しての体長推定 |
観察者努力量配分観察 |
観察者の目視努力量の角度別配分観察 |
目盛付双眼鏡 |
距離測定目盛を内蔵した双眼鏡の実施テスト |
二次発見影響実験 |
二次発見の影響評価 |
発見方位測定板実験 |
発見方位測定板の実施テスト |
人工衛星位置観察 |
人工衛星を使っての接近距離推定 |
トラックイン上の発見確率推定に関する実験
変速実験 |
異なった速度での発見確率の観察 |
平走実験 |
2隻で平走した時の 2隻の発見率の観察 |
独立観察者実験 |
同じ船で独立した2つの観察場所の発見率の観察 |
標識−回収法に関する実験
標識回収実験 |
回収標識結が完全に発見されるかのテスト |
標識判定確認実験 |
標識銃で発射した銛の判定の精度テスト |
標識銛耐性実験 |
標識銛の鯨体貫入観察 |
ストリーマー銛実瞼 |
新しく開発したストリーマー付銛の実施テスト |
目視調査からは、現在資源量の情報が提供されるが、当該資源が今後どの様に動いて
いくのか、あるいは資源内部にどの様な問題が生じているかといった
生物学的・動態学的情報は提供されない。
日本が南極海で 1987年より実施している調査は、商業捕鯨とは全く異なった組織的
無作為抽出法を採用し、捕獲鯨からの生物学的情報を通して資源動態的予測資料が
提供される。
この様な情報は、資源量の情報とともに資源管理にとって重要である。
しかしながら、個体を標本として抽出するにあたってはより厳密な調査計画が
必要である。
その為に、日本の調査では、全ての個体が同じ様に標本化される確率が
保証される様に、IDCR航海より更に厳密に企画され、調査の開始点が無作為に
決定されたり、また群れの中からも無作為に個体を抽出する方法がとられている
(図4)
。
加えて、日本は1976年より南半球で枯渇した大型鯨類の資源モニタリングを
継続的に行っており、その調査は北部南大西洋を除く南半球全域に及び、1976年から
1987年までで既に約 100万km(地球の約 25周分)に達している。
調査結果の検討
調査結果は、まず IWC事務局の数理解析の専門家により解析される。
その解析と資源量推定結果は、IWC科学委員会年次会議で報告され、科学委員会の
専門家により審議される。
調査方法・得られたデータの精度・解析方法・推定方法や実験結果等が詳細にわたり
検討される。
特に、得られたデータや推定方法に偏りがないかが厳しく吟味される。
1982年の商業捕鯨のモラトリアムの採択にあたって、IWCは科学委員会に遅くとも
1990年までに鯨類資源の包括的資源評価を終了されるよう指示した。
IWC科学委員会は、当時もっとも主要な捕鯨の対象であった南ミンククジラの包括的
資源評価を優先し、特にその基礎となる現在資源量の推定とその精度の向上に精力を
傾注した。
南アフリカのバターワース博士や英国のバックランド博士等がこの先頭に立ち、他の
科学委員会の専門家をも含め包括的評価に向けた厳しい議論と解析が続いた。
1990年のオランダで開かれた第 40 回 IWC科学委員会年次会議で科学委員会は
南ミンククジラの包括的資源評価を完了し、南極海の南ミンククジラの資源量を
評価し、76万頭とすることで全員一致で合意した
(RIWC: 41,page 59 Table 1)。
資源量推定の信頼性
IWC科学委員会が南ミンククジラ資源評価に際して最良の値として採用された推定量
76万頭の誤差(変動係数)は、9%である(RIWC: 41,Nature Vol.357)。
南極海以外での鯨類の同様な目視法による資源量推定値の誤差は、現在商業捕鯨が
行われている北東大西洋ミンククジラの場合 15%(RIWC:43)、原住民・生存捕鯨
として捕獲が許可されている大西洋西グリーンランドナガスクジラで 35%
(RIWC:43)、同西グリーンランドミンククジラで 24%(RIWC:43)である。
そしてマグロと混獲される北東太平洋マイルカでは 15%(RIWC:44)であり、
また米国魚野生動物局が実施した北極海でのセイウチでは 31%である
(Marine Mamal Science 1989)。
これらの推定値と比べても南極海での調査の精度がかなり高いことがわかる。
南ミンククジラの推定精度は、最も調査研究が進んでいる北東太平洋コククジラの
5%(RIWC:43)や北極海ボーヘッド 7%(RIWC:43)とほぼ同程度である。
一方、南極海において鯨類と同様な重要な生態的位置をしめるアザラシ類の周極的な
資源量推定値に関しては、依然として大まかな値のみで推定精度も計算されていない
(Antarctic Ecosyste, 1990)ことを考えても、南極海という人間活動から遠く
隔離された海域で、厳しい自然条件下での調査とその成果としては、きわめて高い
精度が確保されていると考えられている。
更に、南極海より調査が楽な陸上の鳥の目視による推定精度も高い方でも 10%前後
であること(Distance Sampling,1993)もつけ加えておく。
おわりに
1986年以後陸上の穀物生産は、世界全体で毎年 1%であったのに対して、人口の伸びは
2%近かった。中国やアフリカでは、毎年東京都の面積に匹敵する耕地面積が砂漠化し、
1970年代以後の穀物増産の主役を担った北米中西部に灌漑用水を提供している巨大な
地下水層も次第に枯渇しはじめている。
森林の農地化もこれ以上期待出来ない。
逆に第 3世界のほとんどで人口増加が続いている結果、基本的な燃料である薪が
不足し、調理の為の薪の需要が森林の再生産維持能力を越えてしまっている。
土地の侵食・砂漠化と有限の淡水資源の問題による地球規模での穀物産出高の停滞は
明かであり、これまで農業や家畜生産の成長を高めてきた化学肥料に代わる新技術の
見通しも暗い。
米国のブラウン大学の推定では、食料をすべて平等に分配し、穀物を動物の餌にせず、
皆が菜食主義にもどってはじめて約 60億の人口を扶養出来るものの、北米型
(カロリーの約 35%は動物性の食品)をとる場合、最大扶養人口は約 25億で現在の
人口の半分以下となることを明らかにした(Environmentin Peril,1991)。
国連人口開発会議での人口増加抑制策に関する合意も不十分であった。
この様に、人口爆発は不可避であり、人口爆発に伴って一人当たりの陸上の
森林・穀物資源や家畜資源等があれもこれも減っていく中で、地球人口全体の
生活条件を改善していくことは容易ではない。
今後水産資源の持続的利用に対する需要は大幅に増加するであろう。
しかしながら、地球上の海産資源の推定潜在生産量 1 億 2千万トンに対して、既にその
82%が利用されてしまっていることは、今後更に開発しえる余裕は少ないことを
意味している。
したがって、既に開発している資源のより有効な持続的利用が欠かせない。
鯨類資源、特に南大洋に分布する鯨類資源は、人間が直接かつ大規模に利用できない
動物プランクトンや深層性のイカを餌としている。
したがって、鯨類資源の持続的利用は、鯨資源の利用のみならず、鯨資源を通して
地球規模で未開発資源の有効利用といえる。
しかしながら、この科学的合理性に対して、鯨の利用自体を否定し、鯨を神聖で
不可侵な生物とする思想が伝染病の如く欧米に蔓延している。
今世紀後半から欧米における自然と人間との関係に対する認識は急速に変化した。
特に米国では、「ピューリタニズム」を軸に自然を「開拓すべきもの」と強く信じて
いた人々が、環境破壊がひどくなってくると、人間をとりまく環境さらには地球自体も
傷つきやすいと認識しはじめた。
そして、傲慢な人間の罪が問われはじめ、人間の環境に対する考え方が「自然との
調和や自然にやさしく」といった方向に急速に変わっていった。
この様な思想の変革期・混乱期に、鯨資源が環境破壊や傲慢な人間の罪として最初に
政治的に取り上げられた。
当初、鯨資源が絶滅の危機に貧しているという科学的・資源学的懸念であったが、
その後先鋭化した「環境倫理」に基づく「動物の権利」の思想は、鯨は人類が
利用すべき対象ではないとする、鯨聖獣の思想を世界に迫った。
絶滅の危険が無いにも関わらず特定の生物を聖獣祝する行き過ぎた一部の環境運動は、
環境運動自体の資金的・政治的貢献を保証するかもしれないが、人類が人口爆発の中で
人類全体の生活条件を改善していく基本的思想である持続的利用とは全く無縁である。
生物資源を維持し、研究し、持続的に利用するための戦略をつくることは、
あらゆる国にとって最優先事項である。
解決策は最終的には政治的なものだろう。
しかしその政治的決定は、自然科学特に生物科学によって裏打ちされたものでなければ
ならない。
さもなければ、資源の偏った開発や利用をもたらす。
現実に、北西大西洋のタラ資源は初期資源の 10%程度に枯渇してしまったにも
関わらず、最近までその資源は保護されず、逆に南極海で初期資源以上の資源水準に
ある南ミンククジラの利用が禁止されている現状が生まれている。
今後、絶滅の危機にはなく資源が豊富にも関わらず行き過ぎた環境倫理や動物権利の
思想は、資源の地球規模での合理的利用を、ひいては生物の多様性喪失の原因に
なりかねない。
最後に1960年代生態学者は、哲学的に重要な思想の変革を提起した。
すなわち、「自然と人間は対立した概念ではなく、人間も自然の一部であり、現在の
環境危機は過去の人間の自然に対する傲慢な態度が原因」というものであった。
この提起は、その後政治を動かしやがて自然保護の世界的な理解と運動をもたらした。
しかしながら、行き過ぎた環境倫理や動物権利の運動に抗して、生態学者は新たに
「いかなる生物資源も絶滅の危険がない限りにおいて倫理的差別を排除し、鯨資源を
含めた再生産可能な生物のもつ様々な価値に対する理解と認識を深め、生物のもつ
潜在的な生産力をいろいろな形で開発、管理、増強していかなければならない」ことを
提起しなければならないのではないか。
参考資料
Antarctic Ecosystem.
1990, Kerry, K.R., and Hempel, G. (eds)
Springer-Verlag, Berlin.
Distance sampling.
1993. Buckland, S.T., Anderson, D.R., Burmham, K.P., and Laake, J.R.
Chapman & Hall, London
Environment in Peril.
1991. Wolbarst. A.B. (ed)
Smithsonian Institution, Washington D.C.
The stocks of whales,
1965. Mackintosh, N.A.
Fishing News (London)
Preliminary estimates of the southern populations of
the large baleen whales.
1956. Mackintosh, N.A., and Brown, S.G.
Norsk Hvalfaugstiid 45: 469-480.
Marine Mammals Science Vol. 5 (1989).
Nature Vol. 357 (1992)
Report of the International Whaling Commission vols. 29, 41, 43 and 44.
The estimation of animal adundance and related parameters.
1982. Seber, G.A.F.
Charles Griffin & Co., Ltd., London
Wildlife Monograph No. 72 (1980)
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