2001年のIWC年次総会

21世紀最初のIWC総会は去る7月23日から27日までロンドンで開催された。 近年共通の主要議題については、例年と大差ない議論が展開され、概要は 本家IWCのプレスリリース 水産庁のプレスリリース を見ていただきたい。


− アイスランドの加盟問題 −
今年の諸議題のうち、過去に例を見ない揉め方をしたのがアイスランドの再加盟問題であったので、以下、この点をまとめてみる。

アイスランドは、北大西洋にポッカリと浮かぶ島国で、デンマーク領グリーンランド、イギリス、ノルウェーの間に位置する。 面積は10万3000平方キロで人口は28万弱(1999年)である、といってもピンとこないであろうから、少しわかりやすく書くと、北海道より2割ほど広い島国に、函館市と同程度の人口が住んでいることになる。 日本同様の火山国で、氷河、火山、オーロラなどが観光客を引き寄せる源となっている。 農耕には向かない地理的環境で漁業が盛んであり、輸出の7割を依存している。 漁業政策上の理由により、EUには未加盟である。 IWCには設立当初から加盟しており、自国の近海でナガスクジラ、イワシクジラ、ミンククジラ、マッコウクジラなどを捕獲していた。

1982年にIWCでモラトリアムが採択された後、捕鯨国であった日本、ノルウェーは条約に定められた意義申し立てをした。 IWCの科学委員会が、ミンククジラなど資源量が豊富な鯨種がいる以上、全ての鯨種の捕獲を禁止する包括的モラトリウムに科学的根拠なしとする中で、鯨を特別視する風潮にすっかり染まった大多数の加盟国が、条約第5条の「科学的認定」を無視してモラトリアムを可決した状況は、とうてい受け入れ難かったのである。

日本は当時、アメリカには弱いことで定評があった中曽根総理の政権下であり、アメリカの水域内での日本漁船への漁獲割り当てへの削減で脅されて、モラトリアムへの異議申し立てを撤回してしまう。 やがて、異議申し立ての撤回によって守りぬいたと思った、アメリカの水域での漁獲割り当ても、先方からの一方的通告で失い、禍根を残す結果となった。

ノルウェーは、異議申し立てをしたまま、商業捕鯨は自主的に停止していたが、1990年代に入って再開し、今日に至っている。

さて、捕鯨国であるアイスランドはモラトリアムへの異議申し立てはしなかった。 モラトリアムの条文には「遅くとも1990年までに鯨資源の包括的評価を行なって見直す」とあったので、見直しに備えて調査捕鯨でデータを集める路線を最初から選択した(1986年からの4年間の調査で捕獲した合計は、ナガスクジラが292頭、イワシクジラが70頭)。 調査捕鯨に際しては、反捕鯨団体のシーシェパードに研究施設を破壊されたり捕鯨船を沈められるという被害にも会っている。 科学的に鯨資源の状況を示せば、モラトリアムは解除されると見込んでいたようだが、1990年にはIWCの科学委員会が鯨資源の包括的評価をしてもモラトリアムが解除されない中、1991年に自国で開催されたIWCの会議の場で 脱退を表明 する。

IWCから脱退すればもはやモラトリアムに拘束されることなく捕鯨はできるのだが、捕鯨再開の意思を国会決議で示すことはあっても、実際に行なうことはなかった。 ただ、1992年に結成されたNAMMCO(North Atlantic Marine Mammal Commission、北大西洋海産哺乳類委員会)には加盟している。

IWC脱退後は、様々な国から再加盟するように要請されたが、そのような中、今年6月についに加盟の手続きをした。 ただし、「モラトリアムには異議申し立てをする」という条件付きであった。 これは、再加盟した後も、モラトリアムに束縛されることなく、ノルウェーのように商業捕鯨を再開できることを意味する。 過去にも、こういう「条件付き加盟」の例はあった。 例えば、ペルーやチリが1979年に加盟した際、自国の200カイリ以内の水域では国際捕鯨取締条約の制約は受けない旨の注釈付きであった。 エクアドルも同様の条件付きで加盟している。

IWCの国際捕鯨取締条約の条文には加盟については、「この条約に署名しなかった政府は、この条約が効力を生じた後、アメリカ合衆国政府に対する通告書によってこの条約に加入することができる。」(条約第10条2項)とあるだけで、IWCの既存の措置について意義を申し立てたままでの加盟の可否については全く既定がない。 そこで、国際条約や協定について定めた「ウィーン条約法条約(Vienna Convention on the Law of Treaties)」に照らし合わせると、「異議申し立てをした状態での加盟をIWCの国際捕鯨取締条約が禁止していない以上、国際法的に問題なし」となる。 個々の加盟国が、アイスランドとの2国間レベルで異議を唱えるのは勝手だが、条約機関であるIWCが組織として加盟を拒否できる問題ではないのである。

むろん、反捕鯨国にとっては異議申し立てをしたまま加盟されて捕鯨を再開される事態は容認できるはずはないから、さっそく会議初日に「異議申し立て状態での加盟は認めない」という動議を出した。 これに対し捕鯨国側が、国際法的にIWCはこの問題を扱う権限がないと反対したが、賛成19、反対18、棄権1で、この問題を扱うことが認められた。 さらに「アイスランドを投票権のないオブザーバーとする」動議が、賛成18、反対16、棄権3で採択された。 「棄権3」は、「この件で投票すること自体が国際法的に根拠なし」という立場を表明していた、スイス、フランス、オーストリアである。

この結果に反対する捕鯨国側は、以後すべての議案の投票において、アイスランドの票をカウントした分を正当なものと見なす旨のコメントを付け加えるという、前代未聞の会議となったのであった。

(2001年9月1日 記)

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