「アンブロークン」角材挙げシーンの荒唐無稽さ - 歴史記憶の迷路を辿る ブログ・アーカイヴ

投稿日時:2015-01-29(17:12) | カテゴリー : 「アンブロークン」関係

Unbroken 角材 縮小2

さて、「アンブロークン」の内容検証、いよいよこの映画の象徴的シーンともなっている
角材持ち上げ場面です。

「アンブロークン Unbroken」には元ネタとなる本があります。
ザンペリーニ自身とプロの著述家に拠る自叙伝「Devil At My Heels」

Devil at My Heels: A Heroic Olympian's Astonishing Story of Survival as a Japanese POW in World War IIDevil at My Heels: A Heroic Olympian's Astonishing Story of Survival as a Japanese POW in World War II
(2011/11/01)
Louis Zamperini、David Rensin 他

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ヒレンブランド著の「アンブロークン」はこの本を底本として、最悪の場面だけを引用して、あるいは文章そのままパクっています。
(共著者のデヴィッド・レンシンはモンク言わなかったのだろうか・・カネ渡したか・・)

Devil~にも角材持ち上げ場面があります。 (180p)

He beat me,then dragged me outside and ordered me to stand at one end of the compound while holding a four-by-four-by-six-foot hardwood timber at arm's length over my head-and keep it there.

フォーバイフォーと言えば4×4で建築上での89×89mmの角材を言うそうです。
そして長さが6フィートだから約183㎝。
これを37分間持ち上げ続けた、というのです。(アンブロークンもDevil~も共通)

アメリカメディアからこんな検証が出ています。

「Unbroken細かい点は本当か」New York Post記事

ここの5.に「6フィートの角材を37分間持ち上げ続けられるのか」について3人の専門家が答えています。

デューク大学•Dr. Claude Piantadosi医学教授
「角材の重さや本人の力量にも拠るので上手く答えられない」

米軍サバイバル術教官Thomas Coyne 
「ザンペリーニは時間の感覚が狂っていたのかもしれない」
 

ニューヨーク大学ベルヴュー医学センター(拷問経験者ためのプログラム専門)Dr. Allen Keller
は台本がバカバカしいと分かっており「何だって?!そんなら片足飛びしながらアルファベットを後ろから唱えるなんかどうだ?」


それにしてもこの映画での角材、9cm角よりもっと大きめに造られてないか??




この角材持ち上げ虐待に至る原因として、「アンブロークン」では(30章最後の辺り)
ワタナベ(渾名The Bird)にヤギの世話を命じられたがヤギが死んでしまい、世話をしなかった罰だとしています。
元から痩せて死にかけていたヤギをザンペリーニがしっかり繋いでおかなかったせいで、ヤギが穀物倉庫に入ってしまい中で食べるだけ食べてそのために死んでしまったのを彼のせいにされた、と書かれている。

ところが「Devil~」の方では 
that night someone let the goat into the grain shack and closed the door.
「誰かがヤギを穀物倉庫に入れて閉じ込めてしまった」となっています。
その前後を見てもザンペリーニはヤギの世話を殆どしていなかったようなのです。

それ以前にDevil~では足を悪くしたザンペリーニは外の労働でなく機械の油さしや調整の仕事、縫い物の仕事をさせられていました。つまり軽作業です。
その事は「アンブロークン」には全く書かれていません。
外での重労働ばかりを強調している。
軽作業の1つとしてヤギの世話を言われたのに殆ど放置していた、その罰としての角材持ち上げだったということ。

いくら軽作業の怠慢でも罰はいけないだろうとは思います。
けれどそもそも、この角材持ち上げ虐待なるものは実際にあったのだろうか??




ここで前回出した田中利幸(別名Yuki Tanaka)の本 「知られざる戦争犯罪 Hidden Horrors」です。

知られざる戦争犯罪―日本軍はオーストラリア人に何をしたか知られざる戦争犯罪―日本軍はオーストラリア人に何をしたか
(1993/12)
田中 利幸

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サンダカン(マレーシア方面)での出来事として(62p)

E捕虜部隊がサンダカンに到着した1943年4月に新たに捕虜監視員が増員されているが、(中略)
最も頻繁に行われた捕虜虐待方法は、捕虜を炎天下に立たせ、太陽に向かって両腕を真っ直ぐに伸ばすかあるいは重たい材木を持たせ、通常は20分から30分あまり、長い時には1時間もそのままの姿勢を取らせるというものであった。
太陽光線がまぶしくて目を閉じたり疲れて両腕を降ろしたりすれば、容赦なく脇や背中を棍棒で殴りつけた。



ザンペリーニが直江津収容所でワタナベから受けたという虐待とほぼ同じ描写です。
専門家が人間生理学的に不可能だとしているのに、こんなに頻繁に南方でも日本本土でも捕虜に対して行われていたのでしょうか。
そんな事させるくらいなら、労働力が足りないというなら(監視兵側もそんな暇があるのか?)有意義な事をさせたはずと思うが・・・

田中利幸の本は東京裁判でも却下されたような荒唐無稽な虐待・虐殺事案が多数書かれているトンデモでしかありません。
そんなトンデモ説を防衛省防衛研究所でさえ取り上げていたりします・・
旧軍における捕虜の取扱い

「アンブロークン」原作本では巻末に参考文献としてこの田中の著書、田中の説を取り入れた調査書などを何回も挙げている。

トンデモな捏造が繰り返し使われ、より酷いものとして再生産されていく・・・
捕虜虐待全般、皆殺し計画、食人・・・それら全て同じ構図で「アンブロークン」は造られている事が分かります。








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