実家納戸に埋もれていた本の一冊
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おかわいそうに―東京捕虜収容所の英兵記録 (1956年) (1956) ルイス・ブッシュ 商品詳細を見る |
しかしてこの残虐の行為は米英アングロサクソン民族共通の国民性であつて、たまたま戦争といふ形を借りて現はした僅かその一端に過ぎないのである。われわれは曾て前欧州戦争の平和会議に人種平等案を提出しようとして阻止されたのであるが、これを阻止したものは果して何人であつたか。わわれれ日本人を劣等民族なりとして移民を禁止した国は果していづこの国であつたか。彼等は口に自由と平等を唱へ顔に正義とデモクラシーの仮面を被りながら彼等の神さへも許さざるこの罪悪を犯したではないか、彼等こそ劣等の焼印をその額に刻すべき米英アングロサクソン民族そのものである。われわれは決してこれを忘れる程健忘性でも卑怯でもない。
私は先日「お可哀想に」といふ言葉を聞いた。それは東京に住む或上流婦人の口から発せられたのであり「お可哀想に」である。対手はアメリカの捕虜である。我が忠勇なる日本軍将兵に抵抗したとこれ等のアメリカ人どもが武運拙く----いや彼等をしていはしむれば死なないことに於て運よく捕虜となつて、港の波止場で卒倒しつつある姿が新聞のうへに写真となつて現はれた。その姿に向つて不用意に発せられた言葉が実に「お可哀想に」である。
この翌日に於ける「お可哀想に」といふ上品な婦人用語は一体真の日本婦人特有の優しさ、淑かさ、或は敵を愛する精神から発せられたものとして、一層われわれはこれを賞賛すべきであらうか、将又政府は奨励金の割増を附けて広く巷に流行せしむべきであらうか。
ルー大使が帰米後「日本人の中にはわれわれの親友が多数残つてゐる」と述べたその日本人たちであるからである。今にして驚くことはアメリカの影響が如何に広くまた如何に深く日本国民の心の中に喰入つてゐるかといふことであつて、アメリカは戦はずして早くから日本国民の心の中にスパイを放つてゐた。山中の賊を破るは易く心中の賊を破るは難し、われわれは先づ心の中の賊、心の中のハリウッド、ニューヨーク、心の中のアメリカを打破らねば仮令幾隻敵の軍艦を打沈めても未だ勝利への道に踏出したとはいひ得ないのである。
1907年ロンドンに生まれる。仏教と日本史の研究のため昭和7年来日。
弘前、山形両高等学校で英語と英文学を講じて学生に親しまれる。
昭和15年、英海軍士官として従軍、香港陥落で日本軍の捕虜となり、各地の収容所を転々とした。
東京大森捕虜収容所で終戦を迎え、一度英国へ帰り、昭和21年再び来日。
英国映画協会の代表者として活躍、NHKに勤務、国際放送に従事するほか、カレントトピックスを担当。
著作には日本事物辞典などのほか、かね夫人との共作による友松円諦博士の仏教に関する著書、火野葦平氏の「麦と兵隊」その他の翻訳がある。
韓国で猫に生まれるほどの地獄は無い(犬も) | 章表紙 | 「東京捕虜収容所の英兵記録」 その2--捕虜に給料が支払われていた!